自律神経が何らかの原因により、正常に機能しないことから引き起こされるさまざまな症状の総称です。
自律神経は、呼吸、血液循環、体温調節、消化排泄、生殖、免疫などの
機能を無意識に調整しており、生命維持には欠かせないものです。
自律神経の乱れがあると、調整機能がうまく働かずにさまざまな症状が出現してきます。
これら数々の症状を指して自律神経失調症と呼びます。
自律神経失調症はガイドラインに記載されている正式な「病名」ではありません。
検査により臓器や器官に異常が認められない場合に、自律神経失調症と診断されることも度々あります。
自律神経は全身の器官をコントロールしているため、そのバランスが崩れるとさまざまな症状が現れます。
よく見られる症状としては、疲労感、めまい、ふらつき、のぼせ、冷え、頭痛、耳鳴り、動悸、関節の痛み、便秘、下痢、生理不順、口や喉の不快感、頻尿、残尿感、発汗、肩こりなどが挙げられます。
症状の現れ方には個人差が大きくみられます。
複数の症状が別々に現れることもあれば、同時に3つ、4つの症状が重なることもあります。
自律神経のアンバランスに随伴しやすい神経症状としては、イライラや不安、不眠、記憶力低下や集中力低下、感情の起伏が激しくなるといったものがあります。
実際には、個々の臓器に起こる症状の現れ方により、別の病名がつくことがたびたびあります。
頭痛の症状であれば「片頭痛」や「筋緊張性頭痛」、喉が詰まるような感覚が起こる「咽喉頭異常感症」、下痢・便秘・腹痛を繰り返す「過敏性腸症候群」、息苦しく感じることに因って呼吸数が多くなる「過換気症候群」、全身の痛みが続く「繊維筋痛症」などの名称があてはまります。
神経は体の中心に位置する「中枢神経」(脳、脊髄)と、体中に張り巡らされている「末梢神経」に大別されます。
「末梢神経」はさらに、意志によって体の各部を動かす「体性神経」と、意志に関係なく、刺激に反応して身体の機能を調節する「自律神経」に分けられます。
この「自律神経」はさらに、身体を活発に動かすときに働く「交感神経」と、
身体を休める時に働く「副交感神経」という逆の働きをする2つの神経に分けられます。
この2つの自律神経は互いにバランスを取りながら身体の状態を調節していますが、このバランスが崩れることがあり、結果として全身にいろいろな症状が出現してきます。
自律神経は、私たちの意識や状態とは無関係に24時間休みなく働きます。
そのおかげで睡眠中も心拍や呼吸が止まることはなく、消化器は食物を分解して栄養を体に蓄え、日々の活動に必要な準備を整えながら過ごすことができます。
外気の変化に合わせ、体内温度調節を行うのも自律神経の仕事です。
体温調節のため、発汗、血管の収縮、血液量の変化など、自律神経が各組織に作用して適切な温度に調節をしてくれます。
それが乱れると必要以上に汗が出たり、反対に汗をかけなくなったり、冷えやのぼせ、ドライアイやドライマウスなどの症状がおこるようになります。
そのような自動的な働きを持つ自律神経は、生きるためには絶対に欠かせない非常に重要な存在で、この働きのバランスが乱れてしまえば、様々な不調が現れます。
交感神経の働きとしては ①筋肉の緊張を保つ ②心臓の鼓動を高める ③呼吸を早める ④脂肪を分解してエネルギーを生み出す などが挙げられます。
交感神経が活発に働くと、外で働いたり活動したりするのに適した、身体状態をつくることができます。
副交感神経の働きとしては ①胃腸の動きが促進され、消化や排泄をスムースにする ②脂肪を蓄積する ③筋肉の緊張をゆるめる ④脈や呼吸をおだやかにする ⑤血管を広げてリラックス状態に導く などの特徴があり、主に休息している時に優位に働き、入眠にも関与します。
自律神経失調症は男女共に認められますが、女性の方が明らかに多く見られます。
理由としては、次のことが指摘されています。
① 女性ホルモンの生理的な変化がある
② 甲状腺ホルモンが乱れやすい
③ 女性の方が気分障害や不安障害が多い
④ 女性は自己主張しにくく、自らの感情を抑制しがちになる
⑤ 女性の方が、容姿が評価され、極端なダイエットなどに走りやすい
⑥ 女性の方が人間関係が複雑になりがち
自律神経の乱れる原因としては、不規則な生活、過度のストレス、更年期におけるホルモンの乱れ(更年期症候群)、先天的要因などが挙げられています。
時には、うつ病や不安症の症状の一部として現れることもあります。
自律神経失調症にかかりやすい人は、性格的には、真面目で責任感が強く、几帳面で心配性の人、また、内向的な人が挙げられます。
体質的には、冷え性や低血圧、虚弱体質、痩せている人などという特徴があります。
こういった方は、ストレスの影響を受けやすいので注意が必要です。
性格的傾向としては、「神経質性格」の方が少なからず見られます。
神経質性格とは、心配症で内向的という弱気な側面と、完全主義で理想主義、負けず嫌いという強気な側面が共存している性格傾向です。
この強弱の側面は相容れずに、ストレスを抱えやすい一因となります。
患者の訴える自律神経症状の、原因となる身体疾患が存在しないかどうかを注意深く診察します。
自律神経症状の他に錐体外路症状などの運動系疾患がないか、抑うつ気分、意欲低下、全般性不安などの精神症状が共存しているか、など慎重に見極めていきます。
検査値で自律神経の失調が確認できるわけではないので、自律神経失調症は正式病名ではありません。
原因を専門的に分析すれば、軽症のうつ、神経症、不安障害などの病名をつけることも可能だからです。
自律神経失調症はこれらの病気の症状の部分のみをまとめて表現した言葉だといえます。
正式な病名でないこの言葉が多用されているのは、暫定的に自律神経失調症と診断して、適切にストレスを管理し対症的治療をすれば、重度のうつや神経症に至ることなく、症状が軽快することが多いからです。
また、患者さんも医師に「自律神経失調症で、大きな病気ではありません」と言われると、安心できるという側面もあります。
もちろん、自律神経失調症の診断には、体に異常がないこと、明らかな精神的病気が無い事の確認が必要です。
ストレスのコントロールと、生活習慣の改善(規則的な睡眠と食事)が最も大切な事柄です。
他に、基礎になる身体疾患が有れば、それに応じた治療を行います。
心身のストレスに起因する自律神経の乱れには、可能な限り環境の調整を行います。
十分な睡眠を取って、休息を図ること、生活のリズムを整えること、過度の飲酒やカフェインの過剰摂取などの習慣を改めることも重要です。
対症療法として、自律神経調整剤や、抗不安薬、睡眠薬などが用いられますが、依存性の問題のため、ベンゾジアゼピン系抗不安薬の長期使用は推奨されません。
背景にうつ病や不安症がある時は、SSRIなどの抗うつ薬も使用されます。
気軽にできるストレス解消法として、散歩や体操、入浴などが挙げられます。
ペットや植物を育てる、音楽鑑賞、カラオケなどの趣味を持つのも効果的です。
家族や友人とレジャーやスポーツを楽しんだり、ボランティア活動に参加するのも良いでしょう。
リラックスできて楽しいと思える時間、心の充実感を得られる瞬間を大切にしてください。
睡眠不足や運動不足などが続けば、血流が悪くなったり、体のリズムが失われて自律神経やホルモンのバランスが乱れます。
反対に、規則正しい健康的な生活、適度な運動を心掛けていれば、多少のストレスは柔軟に処理できるようになります。
メリハリのある生活で体のリズムを取り戻しましょう。
ストレスの原因を突き詰めていくと、人間関係や、過去の出来事に突き当たることが多くあります。
そんな時は、ストレスを少し別な角度で見直してみましょう。
目の前に在る問題は、自分にとってマイナスなだけではなく、プラスになる面もあると気付くかもしれません。
他人と過去は変えられませんが、自分と未来は変えられます。
考え方の角度を変えてみるのも一法です。