川崎病

川崎病とは

乳幼児に好発する原因不明の急性熱性疾患で全身の血管炎を特徴とします。
別名、小児急性熱性皮膚粘膜リンパ節症候群MCLSとも呼ばれます。
日本赤十字社医療センターの小児科医師であった、川崎富作博士が発表した疾患で、世界的に川崎病と呼ばれます。
原因は不明で、ウイルスもしくは細菌などの感染要因および遺伝的要因の関与が推測されていますが、明確な結論は未だ出ていません。
男女差を見ると、男児が女児よりも1.3倍程度多く発症しています。
年間1万5千人位の発病が報告されており、0~4歳の子供10万人中300人以上が罹患します。
日本人に多い疾患で、発症はヨーロッパ諸国に比較して、日本での罹患率は10~20倍にも達します。一方、開発途上国では稀です。
好発年齢は、5歳未満の乳幼児で、罹患率のピークは乳児後半の6~11ヶ月です。
一部の患者に再発することが知られており、再発率は2~3%とされています。
兄弟姉妹が罹患する同胞例は1~2%、両親のいずれかに川崎病の既往が有るものが0.9%くらいとなっています。

感染

川崎病は人から人へは伝染しない(うつらない)病気とされています。
原因が不明なだけに、感染しないという理論的な裏づけは、完全ではないのですが、川崎病は遺伝的背景に、ウイルスや細菌などの環境要因が加わったものと推測されており、現在も色々な施設で検証が行われています。しかし、兄弟で発症する率は低く(1~2%)、同じ部屋で過ごしたり、一緒に遊んでもうつることは無いとされます。

発症原因

川崎病が発見されてから50年以上たちますが、その明白な原因は解っていません。
現在、川崎病にかかり易い体質すなわち、遺伝学的な背景が有るのではないかと言われています。この体質に加え何らかの環境因子すなわち、病気の引き金になるウイルスや細菌の感染があって、発症するのではと言われています。
すなわち、細菌、ウイルス、カビ、リケッチア、などの病原微生物の体内への侵入が過剰な免疫反応を引き起こし血管炎を引き起こすのではないかという考え方が主流となっています。
これまで3度の流行期が存在したこと、また細菌、ウイルス感染が共に減少する9月~11月にかけて川崎病発生頻度が減少することから感染要因の関与が考えられています。また、ヨーロッパ諸国に比較して日本での罹患率が10~20倍と非常に高いことから遺伝的要因の関与が示唆されています。

症状と診断

38.9℃を超える発熱で始まり、1~3週間にわたって熱が上がったり下がったりします。発症から1~2日のうちに眼が赤くなりますが、眼から目やになどの分泌物は出ません。発症から5日以内に、体幹、おむつの当たる部分、口や膣の内側などの粘膜に赤い発疹(班状であることが多い)が現れます。喉が赤くなり、唇は赤く乾き、ひび割れて、舌がイチゴのように赤くなります。さらに手のひらと足の裏も赤色または紫がかった赤色になり、しばしば手足が腫れます。発症から約10日後に手足の指の皮膚がむけ始めます。首のリンパ節が腫れることが多く、軽い圧痛を伴います。症状は2~12週間続きますが、もっと長引くこともあります。
上記主症状の他に、BCGの接種部位が赤くなったり、関節痛、下痢、腹部膨満などもあります。

☆ 診断基準
川崎病の診断は、検査所見からみた特異的診断方法ではなく、川崎病診断の手引き(厚生労働省川崎病研究班作成改定5版)に基づいて行われます。
以下の症状①~⑥ 6つの症状のうち、5つの症状が該当すれば診断することができます。
① 5日以上続く熱
② 口唇の紅潮、眼球結膜の充血
③ 型が不定な発疹
④ 頸部のリンパ節の腫れ
⑤ 硬性浮腫(触ると硬さのあるむくみ)
⑥ 指先から皮膚が薄く剥がれ落ちる
主要症状が4つしか認められなくても他の疾患が否定され、経過中に心臓超音波検査で冠動脈病変を呈する場合は川崎病と診断します。
主要症状が3つしか認められなくても他の疾患が否定され、冠動脈病変を呈する場合は、不全型川崎病と診断します。


☆ 血液検査所見
急性期の血液検査では、白血球増加、炎症反応(CRP)高値、GOT、GPT、ビリルビンの上昇、アルブミンの低下などが見られます。


☆ 急性期
通常、発病から約10日目までを指します。この時期に多くの主要症状が出ます。
この時期に全身の炎症を抑える治療をすることが大切です。
通常、急性期は1~2週間で回復しますが、症状が強い場合は1ヶ月以上続くこともあります。


☆ 回復期
発病約10日目~1か月を指します。
熱が下がると、発疹、眼の充血、リンパ節の腫脹はほぼ消失します。
発熱から3週間目くらいから、手足の先から薄く皮がむけてきます。


☆ 遠隔期
1か月以上後の病期を指します。
この時期の経過は急性期の合併症の程度で変わってきます。


☆ 鑑別を必要とする疾患
川崎病に類似した症状を呈するいくつかの疾患が有り、鑑別する必要があります。
代表的な疾患は次のようなものです。
①エルシニア感染症 ②猩紅熱 ③アデノウイルス感染症 ④若年性特発性関節炎
⑤EBウイルス感染症 ⑥麻疹 ⑦インフルエンザ ⑧ブドウ球菌感染症
⑨マイコプラズマ感染症 ⑩溶連菌感染症

検査

①いったん川崎病の診断がつけば、心電図と心臓超音波検査を行います。
冠動脈瘤、心臓弁での逆流、心膜炎の有無、心筋炎の有無を調べます。
発病後2~3週後、6~8週後、6~12ヶ月後に繰り返し検査します。
②心電図もしくは心臓超音波検査で異常が見つかれば、負荷試験を行います。
③心臓超音波検査で動脈瘤が見つかれば心臓カテーテル検査、冠動脈造影検査を行うことも有ります。

合併症

☆ 冠動脈瘤
全身の血管に強い炎症が起こり、特に冠動脈という心臓血管の一部が瘤のように膨らみ冠動脈瘤ができることが有ります。
患者の10%に発生し、発症から2~3週頃にみられることが多く、動脈瘤の径が大きいほど重症です。内径の大きさから、小動脈瘤(内径4㎜以下)・中等瘤(内径4~8㎜)・巨大瘤(内径8㎜以上)に分けられます。
冠動脈瘤ができると血液の流れが悪くなり、血栓ができやすく先の血管に飛ぶと血管が詰まり心筋梗塞を引き起こします。動脈瘤が大きい場合は後遺症として残ることも有ります。
瘤の大きさが7㎜以上の場合、血栓の危険が上昇し、心筋梗塞を引き起こすこともありますが、時期的には川崎病発症から18か月以内が多いとされます。
免疫グロブリンの治療が奏功すれば重症になる事は稀ですが、それでも急性期の冠動脈拡大は約9%に見られます。
30病日以降にその障害が後遺症として残る率は2.8%となっています。


☆ その他心疾患
心不全、不整脈が知られています。


☆ その他の合併症
無菌性髄膜炎、難聴、胆嚢炎などが知られています。

予防法

☆ 生活上の予防
現在、原因がわかっていないので予防法は不明です。

☆ ワクチン
現在開発されていません。

治療法

☆ 初期治療
入院治療が必須です。
初期治療として組織学的に冠動脈の汎血管炎が完成する前、すなわち第8~9病日以前に治療が奏功し、有熱期間の短縮や、炎症マーカーの早期低下を目指します。


☆ 免疫グロブリン療法
免疫グロブリン超大量単回投与は、現時点で最も信頼できる抗炎症療法で、現在、日本では90%以上の患者さんに免疫グロブリン療法が行われています。
1回に使用する免疫グロブリンの量や投与日数にはいろいろな方法が有りますが、通常、1~2日かけて免疫グロブリン製剤を静脈内にゆっくり点滴投与します。
約80%の患者で解熱が得られますが、15~20%はグロブリンが効きません。
このようなグロブリン不応例は冠動脈障害合併が、反応例と比べ7倍もの高率になります。
急性期の熱の下がるまでは、アスピリンの内服も必要です。


☆ アスピリン療法
血管の炎症を抑え、血液を固まりにくくして血栓を予防する目的でアスピリンの内服が行われます。
高用量の免疫グロブリンを静脈から投与するとともに、高用量のアスピリンを経口投与します。4~5日間熱の無い状態が続けば、アスピリンを減量し、発症から少なくとも8週間経過するまで投与を続けます。
冠動脈瘤がない症例では炎症が治まればアスピリンの投与を中止することがありますが、冠動脈に異常がみられる症例では、長期にわたってアスピリンを服用し続けなければなりません。


☆ ステロイド併用療法
重症例では免疫グロブリン療法と併用することにより冠動脈瘤合併のリスクを減らせます。


☆ 抗TNF-α薬
炎症を鎮め症状改善を目的として、急性期に1回、点滴します。


☆ 血漿交換療法
血液にある病因物質を取り除くために人工透析のような装置で血漿を交換します。

退院後の管理

☆ 冠動脈に後遺症が無かった時
発症1ヶ月、(3ヶ月、6ヶ月)、1年、5年後を目安に受診することをお勧めします。
心電図、心エコー検査、胸部レントゲンなどの検査を適宜受けてゆきます。
アスピリンは急性期の症状が無くなってから1~3ヶ月後くらいまで服用します。
日常生活や運動の制限は特にありません。


☆ 冠動脈に瘤が残った患者さん
特に、冠動脈に中等~巨大な瘤が残った患者さんは、治療と生活の管理が必要となりますので、主治医とよく相談してください。

予後

☆ 冠動脈による分類
川崎病報告から半世紀しか経っていませんので、さらなる長期の検討が必要ですが冠動脈と予後に関しおおよその見解が得られています。
①病気が始まってから8週間以内に冠動脈に異常が無ければ完全に回復する。
②冠動脈病変が早期退縮した患者さんは長期的にもほぼ問題なし。
③小動脈瘤(瘤の径が4㎜以下)では冠動脈病変を残す頻度は稀。
④中等瘤(瘤の径が4~8㎜)の場合、6㎜径以上は巨大瘤に準じた経過観察が必要。
⑤巨大瘤(瘤の径が8㎜以上)は完全退縮は無く、選択的冠動脈造影は必須で
閉塞性冠動脈病変への進展に十分注意する必要有り。


☆ 死亡率
早期に治療すれば川崎病で死亡する小児はほとんどいません。
治療しなかった場合の死亡率は約1%です。
大半は最初の6ヶ月の間に亡くなりますが、なかには10年も経って死亡する例もあります。動脈瘤の約3分の2は1年以内に治りますが、大きなものは治りにくい傾向です。また、たとえ動脈瘤が治っても、成人してから心臓に異常をきたすリスクが高くなります。

保育園、幼稚園に行けるタイミング

感染症に分類されていないので、特別な規定は有りません。
全身状態が良くなってからということになります。