起立性調節障害

起立性調節障害とは

自律神経の不調により循環器系の調節がうまくゆかず、立ち上がった時に血圧が低下したり、心拍数が上がりすぎたり、調節に時間がかかりすぎたりします。
その結果、『立ちくらみ』『疲れやすい』『長時間立ってられない』などの症状がみられる疾患です。
自律神経系疾患なので、身体的要素以外に、精神的、環境的要素も密接に関係していると考えられています。
就学年齢に多く見られ、朝に起きられないことから不登校になりやすいことも知られており、起立性調節障害を患う生徒の約3分の2が不登校で、不登校生徒の約半数が起立性調節障害に罹患しているというデータもあり、不登校の重要な原因の一つです。

疫学

男女比は1対1.5~2の割合で、女子に多い疾患です。
好発年齢は10~16歳で、体が大きく変化する思春期に多く見られ、発症は小学生、中学生の時期がほとんどですが、高校生になってから
出現する例もいくらか見られます。

軽症例を含めると、中学高校生の約10%が罹患しているといわれています。
欠席を繰り返し、不登校状態に陥る重症例はそのなかで、約10分の1、すなわち全体の約1%くらいといわれています。
重症例では、成人期以降にも症状が続く者は約40%にのぼるとされます。
約半数に、遺伝的傾向を認めます。

原因

自律神経による調節機能が乱れると、循環器系の調節に不具合が生じ、起立性調節機能の障害による症状が現れます。
自律神経の乱れは、季節や気候の変化、生活のリズムの乱れ、心理的・社会的ストレス等の複合的な原因で起こります。
特に、思春期の子供は第二次性徴期とも重なり、身体の様々な機能が大人へと変化してゆく時期にあたり、自律神経も乱れやすい状態にあります。
学校における人間関係や急激な身体の成長と変化など、特有の心理的ストレスにさらされることも多く、また自立心が育ちきっていない未熟さゆえに、心身に現れるさまざまな症状に負けてしまいがちです。
自律神経活動には24時間のリズムが有り、早朝になると交感神経活動が盛んになり身体を活性化し、夜には副交感神経活動が高まり身体を休養させるといったサイクルがあります。
ところが起立性調節障害では自立神経活動が乱れ、午前中に交感神経が活発化せず、5-6時間以上も後ろにずれ込んできます。
その一方で、深夜になっても交感神経の活動性が下がってこないので、夜は身体が元気になり寝つきが悪くなります。

なり易いタイプ

精神的、環境的な要素が大きく関連すると考えられています。
性格的にはまじめで気を遣うタイプの子供に多いとされます。
また、ストレスをため込みやすく、周囲の期待に応えて頑張ろうとする子供に多い傾向です。
体の特徴としては、色白の方が多く、比較的やせ型で、下肢が浮腫みやすく、かつ冷え性、さらに運動がきらいで出来れば座っていたいというタイプです。

症状

立ちくらみ、めまい、ふらつき、頭痛、気分不快、倦怠感、動悸、腹痛、食欲不振、朝起きられない、夜寝付けないなどの症状の他、時には失神発作がみられます。
多彩な症状のため診断がつかず治療が遅れることが有り、また、本人の訴えでしか判断できない症状が多く、午後や夜には元気になることから、怠け癖や学校嫌いと受け取られる場合もあります。
典型的な一日の症状の推移としては、朝はいつまでもベッドに居たく、日曜休日は昼近くまで寝て居る事もしばしばで、たとえ早く起きたとしても、頭がボーっとしてはっきりしません。
体を動かすのも大儀で、ちょうど春の霞のかかったような頭です。
やっとのことで体を起こしてみると、もうかなりの時間が過ぎています。
起きた直後は食べる気もしませんが、起きてから時間の経過と共に、徐々に食欲がわいてきます。
午前中は体の動きも悪いし、頭も働きません。
学校の朝礼などで脳貧血を起こして倒れてしまうこともあります。
しかし、昼前後から徐々に調子が上向き、午後の3時を過ぎる頃には非常に良い状態となります。
日没から夜にかけては1日の中で最も元気な時間帯です。
何を食べても美味しく、食欲もあります。色々の不定愁訴もこの時間帯には影をひそめます。
しかし、早く眠らなければと思って床についても頭の中が冴えてなかなか寝付けません。
そんなこんなでスロースターターの1日が過ぎていきます。

診断

診断基準

下記チェックポイントで3つ以上該当し他の疾患が否定的なら起立性調節障害の可能性があります。
ただし、2つでも症状が強い場合は疑います。

  1. 立ちくらみやめまいがある 
  2. 顔色が青白い
  3. 立ち上がった時に気分が悪くなったり失神したりする
  4. 食欲不振
  5. 入浴時や嫌なことが有った場合に気分が悪くなる
  6. 腹痛がある
  7. 動悸や息切れがする
  8. 頭痛がある
  9. 朝なかなか起きられず午前中は調子が悪い
  10. 乗り物酔いがある

除外疾患

診断上、除外すべき疾患は、鉄欠乏性貧血、心疾患、てんかん、副腎疾患、甲状腺疾患などです。

新起立試験

10分以上臥床の後、安静時の血圧・脈拍を測定、起立後の血圧低下からの回復時間、その後10分後まで血圧・脈拍を測定します。
新起立試験の結果から、以下のサブタイプを判定します。

  1. 起立直後性低血圧: 起立直後の血圧低下からの回復に時間がかかる
  2. 体位性頻脈症候群: 血圧の回復に異常はないが心拍の回復に時間がかかる
  3. 神経調節性失神 : 起立中の急激な血圧低下によりいきなり失神
  4. 遷延性起立性低血圧: 起立を続けることにより徐々に血圧が低下して失神

治療

薬物療法

  1. 昇圧剤: 起立性低血圧の薬は起立直後の血圧低下を軽減することができます。
  2. 漢方薬: 半夏白朮天麻湯、六君子湯、小建中湯、苓桂朮甘湯、五苓散、補中益気湯などが用いられます。

非薬物療法:日常生活の工夫

  1. 坐位や臥位から起立するときは、頭位を下げてゆっくり起立します。
  2. 静止状態の起立保持は、1-2分以上は続けない。短時間の起立でも足をクロスします。
  3. 水分摂取は1日1.5~2リットルとし、塩分を多めに摂りましょう。
  4. 毎日30分程度の歩行を行い、筋力低下を防ぎましょう。
  5. 眠くなくても就床が遅くならないようにし、バイオリズムを保ちます。

学校との連帯

学校関係者に起立性調節障害の理解を深めてもらい、罹患している児童、生徒の受け入れ態勢を整えます。

環境調整

子供の心理的ストレスを軽減することが最も大事なため、保護者、学校関係者が起立性調節障害の発症機序を十分に理解し、医療機関、学校との連携を深め、全体で子供を見守る体制を整えることが望まれます。

経過

日常生活に支障のない軽症例では、適切な治療により2~3ヶ月で改善します。
学校を長期欠席する重症例では社会復帰に2~3年以上を要します。

予後

症状は徐々に改善はしますが、起立性低血圧により、日常生活に支障をきたすことが多く見られます。
軽症の場合は数か月以内の治癒が見込めますが、同じ季節に再発することもあります。
中等症以上でも適切に治療が施されれば、16~17歳以降は9割程度改善します。
重症例では、生涯にわたって完治せず、症状が持続し、日常生活に支障をきたすため就労等に困難を抱えることが、最大の問題となってきます。
フルタイムでの就労は困難なことが多く、立ち仕事や、肉体労働は困難で、座位での事務系職種に就労することが多くなります。
パートタイムで1日数時間週の半分程度の就労が多く、その結果、ひきこもり、うつ病、ストレス関連疾患を合併し易くなります。
特に、うつ病は約1割が発症します。
食事性低血圧では、朝、昼食後に低血圧を生じやすく、失神による転倒の危険があります。
思春期以降の女子には生理不順、月経前症候群(PMS)を発症しやすい傾向です。