急性中耳炎

急性中耳炎とは

『急性に発症した中耳の感染症で、耳痛、発熱、耳漏をともなうことがある。』と、小児急性中耳炎診療ガイドライン2018でこのように定義されています。機序としては、鼻やのどについた細菌やウイルスが、耳の奥の中耳という部分に入り込み、炎症を起こし膿が溜まったりする病気です。感覚器という点から見てみると、中耳は鼓膜から内耳へ空気の振動(音)を伝える働きを受け持つ大切な器官です。中耳を構成しているのは、鼓膜から奥に位置する、中耳腔、耳小骨、耳管で、ここに発生する炎症が中耳炎です。小児は特に急性中耳炎にかかり易く、小学校の入学前に、約60~70%の子供が一度は急性中耳炎にかかるといわれています。耳管の換気能は7歳以上で発達してきますので、7歳を超えると中耳炎の発症は減少してきます。

症状

典型的症状としては次のようなものが有ります。

①耳の激しい痛み。
②聞こえが悪くなり、耳が詰まっている感じ。
③中耳には膿がたまり、症状が進むと鼓膜が破れて耳から膿が出ることがあります。

④めまいを併発することが多いのも特徴です。
⑤発熱は原因となる風邪やそのほかの感染症により生じます。
乳幼児・小児の特徴としては以下のことが挙げられます。急性中耳炎のピークは1歳で、次いで、2歳、0歳、3歳、4歳、5歳となります。乳児が耳を触るような動作を繰り返すときは要注意です。耳の痛みを訴えられない乳児は耳漏(耳ダレ)で異常に気づくこともあります。年齢に限らず、難聴は生活する上で困った症状となります。原因としては、耳の奥に膿が溜まったり、鼓膜が破れたりすることで発生します。しかし、適切な治療を行えば、難聴は一時的なもので済み、破れた鼓膜も自然に塞がります。繰り返し中耳炎にかかるケースも多く見かけます。反復性中耳炎と呼ばれ、2~3歳の子供に多く、初めて急性中耳炎にかかった年齢が低いほど、繰り返し中耳炎にかかりやすいといわれています。

原因

一般的原因としては、風邪などをひいたとき、細菌やウイルスが耳管を通り中耳に入り込むことにより発症します。中耳炎は各年代に見られますが、特に小児に多く見られるのが特徴です。耳と鼻をつなぐ細い管状の通路を耳管と言いますが、小児が急性中耳炎にかかり易い原因として耳管の構造が挙げられます。小児の耳管は成人と比較して、太く短い上に、耳から喉までの傾斜が緩やか(水平に近い)なので細菌やウイルスが鼻から耳へと、侵入し易い環境にあります。
また、全身の抵抗力が未だ弱く、鼻の粘膜の抵抗性も未熟なため風邪をひきやすく、その結果中耳炎にもかかり易くなります。小児特有の問題として、鼻がうまくかめない、大きなアデノイドが咽頭側の 耳管口を塞ぎ耳管が開口しにくくなっている等も影響しています。小児の免疫的な問題としては、母親からの移行抗体が生後6~12月で消失し、免疫能が発達してくる2歳までは感冒を契機に中耳炎になり易くなります。
日頃の癖がもたらす要因としては、①鼻をすする②強く鼻をかむ③両側同時に鼻をかむ④鼻をつまんでクシャミする⑤うつ伏せで寝る⑥無理な耳抜きをするなどが挙げられます。耳の外圧が変わることも中耳炎になる原因となりえます。例えば①スイミングで飛び込み②クイックターン③深く潜る④飛行機の離発着時⑤風呂で潜って遊ぶなどが挙げられます鼻のコンデイション不良も気をつけねばなりません。風邪、鼻炎、花粉症、副鼻腔炎などで鼻の状態が悪いと、上咽頭という喉の奥に鼻水がたまり鼻水に含まれる細菌やウイルスが上咽頭から耳管へ感染が広がり中耳炎となります。

予防

基本は次のようなことです。

①かぜを長引かせない。
②鼻汁や鼻づまりはそのままにしないでしっかり治療。
③鼻を強くかまない。
④鼻をすすらない。
⑤鼻汁が出てきたら良くかんで鼻腔の中に鼻汁をためない。(乳幼児は鼻の吸引)

検査

耳鏡、内視鏡、手術用顕微鏡:鼓膜の色調、中耳内腔を観察します。

ティンパノメトリー:鼓膜の動きから、中耳の状態を調べる検査で、浸出液の貯留の有無が判ります。

培養による細菌検査:鼓膜切開を行ったり、耳漏が有る場合は浸出液から細菌検査により菌種の同定が可能です。

診断

問診で急性発症を確認する必要が有ります。さらに患者の生活背景、既往を把握することは、原因菌の耐性化の程度、難治性か否かを予測するうえで有用です。鼓膜の詳細な観察が最も重要です。代表的鼓膜所見は、鼓膜の発赤、膨隆、肥厚、水疱形成、穿孔、中耳腔の貯留液、耳漏、中耳粘膜浮腫などです。特徴的鼓膜所見として、鼓膜の膨隆は高頻度に認められ、滲出性中耳炎との鑑別に最も有用です。鼓膜の軽度膨隆および急性に(48時間以内)発症した耳痛がある、あるいは鼓膜の強い発赤が認められるなどの所見があれば急性中耳炎と診断できます。

治療法

抗生物質の投与:
ウイルス単独感染は5%以下といわれ、肺炎球菌、インフル
エンザ菌などの、鼻咽腔細菌の感染がほとんどですので、抗生剤の投与が有効です。2歳未満の幼児は免疫能が低く、重症化しやすいため十分な治療と経過観察が必要です。14歳以上の患者では、原因菌としては、肺炎球菌、A群β溶血性レンサ球菌、黄色ブドウ球菌、インフルエンザ菌が挙げられます。抗生剤の種類としては、アモキシシリンが第一選択薬として推奨されています。抗生剤使用のメリットとしては早期の治癒が期待できます。デメリットとしては下痢を主とする消化器症状を招く可能性があります。現在問題となっているのは、抗菌剤投与が細菌の薬剤耐性化の原因となり得るということです。漫然と抗生剤を使用するのは避けるべきです。

鼓膜切開:
重症の急性中耳炎が中心で、軽症・中等症の中耳炎に行うことは
あまりありません。抗生剤が効かない場合や、発熱や耳痛が持続する場合などの治療手段です。鼓膜麻酔を行い、顕微鏡下で鼓膜の前下方を1~2mm切開し、吸引器で膿を吸い出します。

鼻腔処置:
鼻疾患を併発している場合は、鼻の処置も併せて行うことが有効です。