小児夜尿症

夜尿症とは

『5歳以降で1ヶ月に1回以上の夜尿が3ヶ月以上連続するもの』と定義されており、世界共通です。

疫学

有病率は、5歳で16%、7歳で10%、8歳で7%、10歳で5%位とされ、成人しても、0.5%の方は、夜尿症が完全にはなくなりません。
男女比は約2:1で男児に多い傾向です。
両親のどちらかに夜尿症の既往がある場合、40%の子供に夜尿症が出現すると言われています。

原因

以下の3つ要因が大きいとされ、それらが複数関与していることもあります。

①夜間多尿

夜眠っている間に作られる尿が膀胱容量より多くなると漏れやすくなります。
抗利尿ホルモンは尿量を調節するホルモンで、通常、昼間より夜間に多く分泌され、夜間の尿量を昼間より少なくしますが、分泌量が不足すると尿量が減少せず、夜尿につながります。

②夜間の機能的膀胱容量減少

膀胱容量が夜間尿量より少ないと夜尿が起こりやすくなります。
膀胱容量は成長と共に発達してゆきます。また、寝ている時は、日中に起きている時と比べて膀胱容量が約1.5倍程度に増大することが解っています。
しかし、膀胱の機能異常で、排尿筋過活動の場合、起きている時に
比べて寝ている時に膀胱容量が増大しなかったり、反対に縮小すると尿を溜めることが出来ずに夜尿につながります。

③睡眠覚醒閾値上昇

尿意で覚醒してトイレで排尿すればよいのですが、覚醒障害あると夜尿が起こりやすくなります。

分類

症状の出現する時間帯で分類

  1. 単一症候性夜尿症:夜間眠っている間しか漏れないタイプで80%位を占めます。
  2. 非単一症候性夜尿症:夜間のみならず昼間の症状を伴うもので、20%くらいみられます。
    心理的要因や、発達障害(特にADHD)、腎尿路奇形、膀胱機能異常などの泌尿器疾患、あるいは糖尿病などの内科的疾患も考慮して精査します。
    また、ひどい便秘の方も夜尿の症状を示すことが有り注意が必要です。
    夜尿症の児童の5%弱にこのような疾患がみつかることがあります。

一度治った夜尿の症状が再度出現するかで分類

  1. 一次性夜尿症:生来から持続する夜尿症で最も多く見られます。
  2. 二次性夜尿症:6ヶ月以上夜尿がない期間を経過して再度夜尿が出現するタイプです。
    多くは心因性で、いじめとか両親の離婚などが影響します。
    しかし、重大な疾患が隠れていることも稀にあります。
    例えば、糖尿病、脳腫瘍(抗利尿ホルモンが出せなくなる)などが重要です。

発達障害との関連

ADHD(注意欠如・多動症)は不注意(集中力がない)、多動性(じっとしていられない)、衝動性(考えずに行動してしまう)の3つの症状がみられる疾患です。
このADHDの子供の10~15%に夜尿症の合併があるとされています。
中枢神経の発達が未熟な上、夜間の水分制限や排泄習慣を守りにくい、下着が濡れている感覚が鈍いなどのことから夜尿症が治りにくいとされています。

治療開始年齢

小学校に上がる6歳の段階で未だ夜尿が続いていたら考慮します。

生活指導

  1. 朝食と夕食を十分にとり、夕食を就寝2時間前までに済ませます。
  2. 夕食時の塩分と糖分を控えます。
  3. 夕食後から就寝までの水分摂取をひかえます。
  4. 夜間睡眠中に起こさないようにします。
    中途覚醒を強制すると、安眠できず、抗利尿ホルモンの分泌を抑制することになります。

アラーム療法

夜間睡眠中の尿失禁を感知して警報が鳴る装置を用いた治療法です。
1940年代からアメリカで行われてきた治療法で、日本で一般に行われるようになって、未だ日が浅いのですが、いくつか良いアラームが導入されています。
これは尿の漏れ始めを感知し、音と振動で気付かせるという治療で、気付くことによって、だんだん本人が我慢して膀胱におしっこが溜められる量が増えてきて、アラームが作動する時間が後ろ後ろへずれてきて、朝までもつようになるという、睡眠時の膀胱容量の増加を目的とした治療法です。
この装具はパンツに小さなセンサーが付いており、おしっこでパンツが濡れるとアラームが鳴ってお子さんを起こす仕組みですが、最初はお子さんが自分で起きることはまずないので、ご両親が起こしてトイレまで連れて行き、おしっこが残っていれば完全に排尿させる必要があります。
根気と忍耐、時間もかかり両親とお子さん
の両方に最低3ヶ月は続ける意欲が無いと挫折します。
各種ガイドラインで積極治療の第一選択に位置づけられていますが、保険適応は無く、家族自らが機器を購入する必要があります。
治療効果が明らかに
なるまで2~3ヶ月程度を要します。
本人と保護者の治療に対するモチベーションが
高い場合には導入を考慮します。

薬物療法

①デスモプレッシン:ミニリンメルト(120)1錠 

就寝30分前に舌下に置き、水無しで服用させます。
夜尿の原因として7割くらいは夜間の多尿が有ります。
夜間の抗利尿ホルモン
の分泌がうまく上がらないためと考えられ、それらの症例に有効です。
服用により腎での水の再吸収を高めて尿量を減少させることにより効果を発揮します。
30%の症例で完治、さらに40%の症例で夜間頻尿が有意に減少します。
一方で中止後の再発率が高いので段階的に減量してゆきます。

②抗コリン薬ベシケア(2.5)1錠 夕食後

夜尿症の一部に認められる排尿筋過活動を抑制する効果があります。
尿を膀胱に溜めておく体の機能の改善を目的としていますが、単剤での効果は限られたものになるので、デスモプレッシンの併用が望ましいところです。
また、昼間尿失禁を伴う非単一症候性夜尿症の一部に有効です。
残尿がある場合や便秘合併例は慎重に投与します。

③三環系抗うつ剤:トリプタノール(10)1錠 就寝前

夜尿症に対する作用機序はよくわかっていないのですが、以前より子供のおねしょに使われています。
一部症例で、心毒性、肝障害、悪性症候群などの報告があるので注意が必要で、特に、過剰投与では、致死的不整脈を起こすリスクがあります。

保護者の姿勢

  1. 起こさず、怒らず、焦らずが基本となります。
  2. 夜尿症は本人の性格の問題ではありません。
  3. 保護者のしつけや子育ての方法の問題でもありません。
  4. 夜尿症自体により自尊心の低下や、生活の質の低下をきたさないように、積極的な治療介入を行う必要性を理解してもらいます。
  5. 多くの夜尿症は1年から1年半程度で治癒に至るため、治療目標に対して保護者のみならず本人に対しても治療に積極的に参加するよう説得します。
  6. 昼間尿失禁を伴う症例では基礎に泌尿器疾患などを有している可能性が有る事を説明します。
  7. お泊り対策として、一時的対処法ですが、夜中にそっと起こしてもらうことは有効です。