性感染症はSTD(Sexually Transmitted Disease)とも呼ばれますが、現在、日本で最も多いSTDはクラミジアで、代表的な性行為感染症です。
クラミジアは細菌に属し、代表的なものは4種類有りますが、ヒトに感染するのは次に掲げる3種類です。
この中で、クラミジア性感染症の原因菌はクラミジア・トラコマチスです。
①クラミジア・トラコマチス:性器クラミジアで非淋菌性尿道炎、封入体結膜炎(トラコーマ)、鼠経リンパ肉芽腫症などを起こします。性器クラミジアの原因菌はクラミジア・トラコマチスのうちD、F、G、H、I、J、K型です。トラコーマの原因菌はA、B、C型です。鼠経リンパ肉芽腫の原因菌は、L型のみです。第四性病の名称がありますが、近年ほとんど発生を見ません。
②オウム病クラミジア:オウム病を発症します。
③肺炎クラミジア:肺炎様の急性呼吸器感染症や中耳炎などを起こします。
1回の性行為での感染の確率は30~50%といわれています。キスや、回し飲み程度の接触で感染するリスクは極めて低いとされます。風呂や温泉での感染もありません。クラミジアを含む体液が付いた手で目をこすると眼に感染することが稀にあります。
女性の10~20代に感染者が増えています。10代では10人に3人20代では1.5人の感染状況です。女性の性感染症の中で最多です。
世界で毎年約1億3100万人が新規に感染すると言われています。日本の人口が1億2700万人位ですのでほぼ同数ということになります。
男性は、非淋菌性尿道感染症の約半数を占めます。女性は、膿の出る、非淋菌性子宮頚部感染症はほぼ全てクラミジアです。
クラミジア感染すると、粘膜が炎症を起こし易くなっているのでHIVに感染する確率がさらに上がります。HIV陽性者とコンドームを使わないで性行為するとHIV感染確率は0.1~1%位です。
尿道や子宮頚管、咽頭、直腸などにある円柱上皮細胞にクラミジアが感染します。性行為により、女性の子宮頚管や喉の粘膜、男性の尿道に感染するケースが多く、精液や膣分泌液等、感染した箇所の粘膜に存在するクラミジアが、パートナーの粘膜に接触して感染します。
クラミジアは細胞内でしか増殖ができない特徴があり、空気中や、水中に放置すると直ぐに死滅するので、粘膜や分泌物との接触以外で感染する可能性は、極めて低いと言えます。空気感染は無く、プールや温泉での感染も無いと考えて良いでしょう。
出産時に赤ちゃんへ感染する場合があります。
クラミジアは、免疫が成立しにくく、何度も繰り返し感染することが有ります。
1~3週間です。
女性は自覚症状に乏しく、自分では全く判らないことも多々見られます。約80%が無症状で自覚しにくく、パートナーにうつしてしまうことが多いのです。妊婦健診においては、正常妊婦の3~5%にクラミジア保菌者がみられます。子宮入口にある子宮頚管に感染し易く、クラミジア性子宮頚管炎を発症します。感染後1~3週間でおりものの増加や生理痛に似た下腹部の痛み、不正出血(生理以外の出血)が出現することもあります。においなどの変化は殆ど有りません。排尿痛や頻尿が出現することも有ります。性交痛などの症状が現れる事もありますが、多くの場合無症状か、有っても極くわずかです。感染が子宮から卵管へ進むと卵管炎を起こして卵管閉塞が発生したり、さらに骨盤まで感染が広がると骨盤内炎症性疾患を起こすことが有ります。また、稀にクラミジアが眼に感染することが有り、結膜炎を発症します。喉のクラミジア感染症では通常、症状は有りません。
男性も半数以上は無症状ですが、自覚症状が出現する場合は、尿道に感染が起きることが多いので、クラミジア性尿道炎の症状が出ます。尿道のむず痒さ、不快感、排尿時の軽い痛み、頻尿、粘り気の少ない膿が出ます。膿は透明~乳白色が特徴で、サラサラしています。朝起きると下着に付いてる事もあります。(淋病の場合は、膿が黄色かかっており、粘り気有り、排尿痛が激しいのが特徴です。)感染に気付かずに放置するとクラミジアが尿道から前立腺や精巣まで入り込み前立腺炎や精巣上体炎が起こります。精巣上体炎では副睾丸(精巣上体)の腫れ、発赤、圧痛、軽い発熱などが生ずることもあります。
直腸が痛んだり、押すと痛みが感じられたり、直腸から黄色い膿や粘液が出ます。
クラミジアが尿道に感染するため、尿検査を行います。
排尿器官ではなく子宮へつながる器官にクラミジアが感染するので、子宮頚部の分泌物や、膣分泌物を採取して、検査を行います。
リアルタイムPCR法
分泌物や尿のDNA検査でクラミジア感染を検査しますクラミジア・トラコマチス核酸増幅同定により、遺伝子診断を行い、高感度で特異性の高い検査手法です。男性は、尿検査で2時間以上排尿しない初尿(20~30ml)を採取し検体とします。女性は、子宮頚部の過剰な粘膜除去後、スワイプを子宮頚管内に挿入し検体とします。咽頭病変を疑う場合は、咽頭うがい液として、生理食塩水15~20mlで10~20秒間うがいを行い、検体とします。
パートナーに感染させる、あるいはピンポン式に感染させ合うことを避けるため、治療が終了するまでは性交を控え、パートナーも同時に検査・治療が原則です。
治療中に飲酒すると治療効果が下がると言われています。
クラミジアの細胞壁にペプチドグリカンが無いために、ペニシリン系やセフェム系のβラクタム抗生物質は無効です。治療には、マクロライド系・テトラサイクリン系・ニューキノロン系の抗菌剤が投与されます。
性病予防の定番です。
クラミジアは治療せずに放置すると1年くらいで症状が消えることがありますが、慢性の腹痛や卵管の閉塞等の合併症のリスクが高くなり、流産や子宮外妊娠の確率が高まります。
女性の場合不妊症になることもあります。妊娠を望む人はクラミジア検査を受けるようにしましょう。女性の不妊症の1/3はクラミジアが原因とされています。
母体がクラミジア感染している場合、新生児肺炎、新生児結膜炎を発症する危険があります。
淋病との同時感染が多いのが特徴です。
男性の場合、感染拡大で、精巣上体炎となることがあります。結果、精菅が塞がり、射精された精液の中に精子がいないという無精子症になってしまう可能性があります。