大腸の壁の一部が外側に袋状に突出した「憩室」に炎症が生じる病気です。
よくある症状は腹痛と発熱で、加えて吐気や嘔吐、下痢、便秘がみられることもあります。
進行した場合、腸壁の蜂窩織炎、腹膜炎、穿孔、瘻孔、膿瘍を引き起こす可能性があります。
加齢や便秘などによる腹圧の上昇によって大腸の壁にできる袋状の小さなくぼみを大腸憩室と呼びます。
憩室は、食道、胃、十二指腸、小腸、大腸のいずれにもできますが、大腸に最も多くみられます。
大腸に憩室ができる状態を「大腸憩室症」と呼びますが、大腸憩室症自体はほぼ無症状です。
しかし、憩室内に便や細菌が停留し、炎症が発生すると憩室炎となり症状が発生します。
大腸憩室は、40歳以上の中高年者に見られることが多く、特に食物繊維の摂取が不足している人にできやすいと言われています。
大腸憩室をもっている人の割合は、40歳以下では10%以下ですが、50歳代では30%、70歳代では50%、80歳以上になると50~66%と、年齢と共に徐々に上昇してゆきます。
日本では憩室は右側結腸に多く、西洋では左側結腸に多いことが知られています。
憩室の炎症である、憩室炎は本来、高齢者に多く見られる病気ですが、近年では食生活の欧米化に伴い食物線維摂取量が減少し、若年層にも増加傾向がみられます。
大腸憩室炎や大腸憩室出血は全世代で増加傾向にあり、再発率も高く推移しています。
憩室出血では1年以内に再度憩室出血を起こす確率が20~35%です。
憩室炎は、日本では40-60歳では、70%は右側結腸に発症しますが、高齢になるにつれて、左側結腸(下行結腸、S状結腸)の頻度が増加します。
急性憩室炎の頻度は、50歳未満では、男性に多く、50歳以上では女性に多く見られます。
HIV感染症患者および化学療法を受けている患者は発生率が高いとされます。
複数の研究で、週あたりの赤身肉の摂取量、喫煙量、肥満度は憩室炎と相関があることが示唆されています。
かつて、ナッツ類、トウモロコシ、ポップコーンと憩室炎の発生に関連が指摘されたこともありましたが、実際にはそのような関連は無いことがわかりました。
① 加齢と便秘
年齢を重ねると大腸の壁が弱くなり、憩室ができやすくなります。よって、高齢者ほど憩室炎の発症率が高くなります。
② 食生活
便秘が大腸憩室の形成に関与していることは明白です。
食物繊維の摂取不足では、便の量が減少し、腸内の圧力が上昇することで、憩室が形成されやすくなります。
赤身肉の摂取は憩室炎に悪い影響があるとされています。
赤身肉とは、ざっくりまとめると、牛、豚、羊の肉です。
赤身肉でないものは、鶏、魚などです。
赤身肉には食物繊維がほとんど無いため、便が硬くなり易く、排便時の腸内圧が上がる傾向にあります。
また、赤身肉は消化に時間がかかり、腸内に長く貯まりやすいので、腸が弱っている憩室炎の時期には負担の大きい食材となります。
さらに、赤身肉には飽和脂肪酸や、ヘム鉄が多く含まれ、腸内で炎症を起こしやすいことが知られています。
一方、加工肉である、ベーコン、ハム、ソーセージ、サラミなどは炎症を強めやすく赤身肉以上に控えた方がよい食品に分類されています。
これら、動物性脂肪の多い食事は、憩室炎の発症・再発リスクを高めるということが明らかにされています。
動物性脂肪は、腸内細菌叢(フローラ)を炎症型に傾ける他、腸のバリア機能を弱め、慢性炎症を助長する他、便秘傾向とし、腸内圧を上げることが知られています。
③ 生活習慣
肥満、運動不足、喫煙、特定の痛み止め服用(NSAIDs)などが、憩室形成との関連を指摘されています。
肥満の人は腸内の圧力が高くなる傾向あり、それによって憩室が形成されやすくなると考えられています。
運動不足は腸の蠕動運動を低下させ、便秘になりやすく、結果として憩室形成と、憩室炎のリスクにつながります。
喫煙は腸の血流を悪化させ、腸の組織が弱くなることで、憩室炎を起こしやすくなると考えられています。
非ステロイド系抗炎症薬NSAIDsは、プロスタグランジンの産生を抑制することが知られています。
プロスタグランジンの働きとして、腸粘膜の血流を保ち、粘液や重炭酸を分泌して粘膜を守る他、炎症や微小損傷の修復を助ける作用を持っているため、これらが抑えられると、憩室の薄い壁がさらに傷つきやすくなり、炎症や穿孔を起こし易くなります。
また、NSAIDsには血小板機能を抑制したり、消化管出血を起こし易くする作用があるため、憩室出血のリスクが上がることも示されています。
さらに、NSAIDsは痛みを一時的に抑えるため、結果として重症化に気づきにくくなり炎症が進行してから発見されるケースがでてきます。
④ 遺伝
遺伝的素因も関与が判っています。家族に憩室症の人がいる場合は、発症し易い傾向があるとされます。
⑤ ストレス
ストレスは自律神経を介して腸の動きを乱し、便秘を増悪させたり、腸管内圧を上昇させたりすることで、間接的に憩室炎のリスクを高める要因となります。
憩室炎の代表的な症状は、腹痛です。炎症が発生すると強い痛みを伴います。
日本では右下腹部痛が多くみられ、西洋では左下腹部に痛みが出ることが多いとされます。
憩室炎による腹痛は持続的であり、数日間にわたって続くこともあります。
炎症が進行すると発熱を伴うことがあり、特に38度以上の高熱が見られる場合は、細菌感染が疑われます。
腹痛以外にも、腸の炎症が酷くなり、消化管の動きが鈍くなることにより、悪心や嘔吐が現れる事もあります。さらに、腸の運動が不安定になることで、排便のリズムが崩れて、下痢や便秘を繰り返すこともあります。
また、腸内にガスが溜まりやすくなり。腹部膨満感を感じることがあります。
また、憩室が傷つき出血すると、血便がみられることがあり、大量に出血した場合には貧血を引き起こすこともあります。
大腸憩室の出血および再出血リスクを高める要因として、低容量アスピリンや非ステロイド系抗炎症薬(鎮痛解熱剤)服用者の増加が推定されています。
出血頻度は高齢者に多く、男性に多い傾向があります。
憩室出血は文字どおり憩室から出血しますが、腹痛は伴わないことが多く、鮮血便が主な症状です。
憩室炎は重症化すると、憩室が破れて穿孔を起こし、腸内内容が腹腔内に漏れ出すことで、腹膜炎を引きおこすことがあります。腹膜炎は激しい腹痛を伴い、緊急手術が必要になることもあります。
重症化例では腹膜刺激症状として、患部の反跳痛や筋性防御を認めることが多くなります。
既知の憩室症を有する患者が、特徴的な腹部症状で発症した場合は、臨床的に憩室炎の再発の疑いが高くなります。
機器を使用しての診断は次のような方法があります。
① 腹部CT検査
炎症の程度、潰瘍、穿孔の有無を確認します。
憩室炎による大腸壁の膨らみや厚さを診断します。
大きな憩室や腫瘍が有る場合にはCTにて検出が可能です。
② 血液検査
白血球の増加、炎症反応CRPをみます。
貧血の有無で憩室炎による出血の程度を確認します。
③ 大腸内視鏡
炎症がある程度治まってから、大腸内部を観察します。
具体的には、症状消失後1~3ヶ月時点での内視鏡が推奨されています。
④ 腹部超音波
限局性腸管壁の肥厚と、憩室の描出、病変周囲脂肪の高エコー化がそろうと憩室炎を強く疑います。
カラードップラーでは炎症部位の腸管壁や周囲に、血流増加のサインhyperemiaが見られます。
憩室症自体は、便通コントロールで経過観察を行います。
憩室炎が発生した場合の治療法は以下のようになります。
① 軽症例
腸を休ませるために一時的に絶食または、消化の良い食事で腸管安静を保ちます。
細菌感染を抑えるために抗生物質が処方されるほか、脱水を防ぐために十分な水分補給を行うことが推奨されています。膿瘍や穿孔を伴わない大腸憩室炎は70-100%の割合で、腸管安静と抗菌剤投与で改善します。
痛み止めとして、ロキソニンなどのNAIDs薬は、原則避ける方が安全です。
理由は、NSAIDsは、胃だけでなく、大腸の粘膜も荒らすことが知られており、腸の壁が炎症を起こして弱っているときに使うと、炎症が長引いたり、潰瘍ができやすくなり、憩室出血や憩室穿孔のリスクが上がるためです。
アセトアミノフェンは比較的安全とされています。
② 中等症~重症
入院の上、腸を完全に休ませるために絶食を行い、点滴による栄養補給が行われます。
さらに、強力な抗生物質を静脈内に投与し、炎症の進行を抑えます。
腹痛が強い場合には鎮痛剤を使用することもあります。
直径2~3cm以下の結腸周囲膿瘍は抗菌剤と腸管安静のみで治癒が期待できます。
③ 合併症がある場合
憩室炎が重症化して合併症を伴う場合には手術が必要になることもあります。
穿孔や、膿瘍形成の場合、手術・排膿処置(ドレナージ)が考慮されます。
炎症が進行して膿が溜まる膿瘍形成が起こった場合には、ドレナージが行われます。
比較的大きな膿瘍(直径3cm超)や、抗菌薬で消失しない膿瘍、および臨床状態の悪化が見られる場合には、CTガイド下経皮的ドレナージあるいは超音波ガイド下内視鏡的ドレナージが行われます。
ドレナージで改善しない場合には手術適応となります。
また、腸の壁が破れて穿孔が生じた場合には、腹膜炎を引き起こすため、緊急手術の適応となります。
死亡率は、合併症がない場合は0.2%ですが、合併症がある場合は2.8%くらいです。
十分な睡眠、リラックスする時間の確保、適度な運動(ウオーキング等)を心がけ、ストレスの管理をします。
規則正しい生活を行い、3食を規則正しく摂り、適度な水分補給が必要です。
野菜、海藻、果物など食物繊維を多く摂り便秘を防ぐ事が大切です。
バランスの取れた食事にしましょう。
適度な運動習慣を身につけるようにし、禁煙、禁酒の励行をしてください。
肥満はリスク因子なので、解消するようにします。運動は体重管理に役にたちます。
手術無しで管理された憩室炎は、いずれ再発の可能性があります。
報告には幅がありますが、1年後の再発率は8%で、10年時点で22%であったとするデータもあります。
虫垂炎、結腸がん、卵巣がん、炎症性腸疾患などが挙げられます。