何らかの原因で脳の中枢神経系の機能障害が生まれつきあり、行動、言語、学習、身体にアンバランスを生じ、日常生活に困難をきたしている状態のことです。
特定の事には優れた能力を発揮する一方で、ある分野は極端に苦手といった特徴が見られます。こうした得意なことと、苦手なこととの差が、普通の人より、凸凹が大きいために、生活に支障が出やすいのです。
発達障害は行動や認知の特徴・特性によって、主に以下の3群に分けられます。
これらの特性は人によって2者、あるいは3者を併せ持つことも有ります。
こうした特性は見た目では判らないため、周囲はつい「本人の努力が足りない」と思ってしまいがちです。しかし、努力をしてもなかなか改善が難しいということが有ります。だからこそ発達障害が「障害」として位置づけられたともいえます。
川崎市も発達障害に力を入れており、当院では、「川崎市かかりつけ医等発達障害対応力向上研修」を修了しております。
発達障害者支援法(平17年)によれば「自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠如多動性障害そのほかこれに類する脳機能の障害であってその症状が、通常低年齢において発現するものとして政令で定めるもの」と定義されています。
知的障害は、別個の、知的障害者福祉法の管轄となります。
発達障害者支援法施行令では「脳機能の障害であって、その障害が通常低年齢に発症するもののうち言語の障害、協調運動の障害、その他厚生労働省で定める障害とする』とされています。法施行の際に出された次官通達では「脳機能の障害であって、その障害が通常低年齢に発症するものうち、学習能力の特異的発達障害、広汎性発達障害など(ICD F80-89)、多動性障害(F90)、行為障害(F91)、チック障害(F98.5)などに含まれるもの」となっています。
国際疾病分類International Clasification of Disease 第10版のことで、発達障害者支援法ではその分類された疾病の中から、自閉症スペクトラム障害ASD(F84.0)、注意欠如・多動性障害ADHD(F90)、学習障害LD(F81)、トゥレット症候群TS(F95.2)、発達性協調性運動障害DCD(F82)、吃音(F98.5)が発達障害の対象となっています。以下にそれぞれの疾患を解説してゆきます。
ASD:Autizum Spectrum Disorder の略です。
国際疾病分類第10版ICD10ではASDはレット症候群、アスペルガー症候群などと共に広汎性発達障害の1分野に位置づけされています。
疫学:典型的には生後2年以内に明らかになります。有病率は 0.65~1%
男女比 4:1 ASD児童の45~60%は知能障害、11~39%はテンカンを持ちます。知的障害は未熟児に多い傾向です。
診断基準:①社会的コミニュケーションの障害 ②限定された興味の2つを満たすもの。
治療法:根治治療は存在しません。一生続く障害なので、慢性疾患としての管理が必要です。早期に行動療法を行うのが最も予後が良いとされます。
中核症状:①社会的コミニュケーションの持続的欠如 ②限定された反復的行動・興味または活動 の2点です。限定的な行動に特別な興味を持ち、変化に拮抗し、仲間に合わせることは無く、あるいは社会的状況に反応しません。日常的な習慣を邪魔されると強い不安を感じます。
周辺症状:①身体的所見で耳の奇形、特徴的皮膚紋理 ②てんかん ASDの4~32%はある時点で大発作 ③言語発達の障害ASDの50%は有効会話能力が発達しない ④知的障害 ASDの30%は軽度~中度、45~50%は重度 ⑤易刺激性で攻撃性、かんしゃく、自傷行為 ⑥気分と感情の不安定性 ⑦感覚刺激に対する反応 ⑧多動と不注意 ⑨早熟の才能 サヴァン症候群など ⑩不眠ASDの44~83% ⑪軽度の感染症と消化管障害
診断:典型的には生後2年以内に明らかとなります。生後18か月以内で、1つも言葉をしゃべらない場合はASD の懸念を持ちます。①相互の対人的・情緒関係の欠如 ②対人的相互反応で非言語的コミニュケーションを用いることの欠如 ③人間関係を発展させ維持し理解することの欠如などがあれば疑います。
ADHD:Attention-Deficit/Hyperactivity Disorder
疫学:有病率は子供の約5%、成人の約2.5% 男女比 2:1
診断基準:アメリカ精神医学会性障害の診断と統計マニュアルDSM4、5によれば、以下の①~⑤が全て満たされるとき診断されます。①不注意、多動ー衝動性が同年代の発達水準に比べより頻繁に強く認められる。 ②症状の幾つかが7歳以前より認められ6か月以上継続している。 ③2つ以上の状況において家庭・学校等の障害となっている。 ④発達に応じた対人関係や学業的・職業的な機能が障害されている。⑤広汎性発達障害や統合失調症などほかの発達障害・精神障害による不注意・多動・衝動性はないこと。
症状:①衝動性:結論無しにしゃべり続ける、他の人を遮ってしゃべる、自分の話す順番を待つことができない ②過活動:じっと座っていることができない 絶え間なくしゃべり続ける、黙ってじっとしていられない ③不注意:簡単に気をそらされる、細部をミスする、物事を忘れる、一つの作業に集中し続けるのが難しい、その作業が楽しくないと数分後にはすぐ退屈になる ④知能低下はADHD単独ではもたらさない ⑤ADHDとLDとを同時に罹患する子供は多い 20~30% ⑤夜尿症 約30%
治療薬:コンサータが小児期のADHDの適応薬として認可されている
ADHDタイプによる治療法:ダニエル・エイメンによる分類と治療
①集中困難・気が散りやすい・整頓や時間の管理困難・多動・衝動最も多いタイプ:治療 興奮剤・高蛋白質食
②集中困難・低意欲・動作が鈍い・退屈し易い:治療 興奮剤・高蛋白食
③しつこくて心配性・頑固で融通が利かない・あまのじゃく:治療 抗うつ剤SSRI・興奮剤・高炭水化物食品
④集中困難・苛々し易い・攻撃的・不吉な発想をする・学習困難・愛想がない・衝動的:治療 抗ケイレン剤・高蛋白食
⑤集中困難・慢性的低レベルのうつ病・思考マイナス方向・悲観的・エネルギー不足:治療 抗うつ剤・エアロビクス
⑥集中困難・気の散りやすさ極端・怒りっぽい・苛立ちやすい・感覚過敏・機嫌悪い・反抗的・おしゃべり:治療 抗ケイレン剤・抗うつ剤・エアロビクス
LD:Learning Disorder
疫学:4%男女差無し
定義:基本的には全般的な知的発達に遅れは無いが、聞く、話す、読む、書く計算する、又は推論する能力のうち特定の物の習得と使用に著しい困難を示す様々な状態を示すもの。
症状:聞き、話し、書き、推理する能力、算数の能力を取得したりするのが著しく困難。このような一連の問題群の呼び名として学習障害LDがある。学習障害は他のハンディキャップ(例えば感覚の障害、精神遅滞、社会性や情緒の障害など)や不適切な環境(文化的違いや望ましくない教育)からも生じるが、そのようなハンディキャップや環境から直接生じるものではない。
TS:Tourette Syndrome
疫学:1%弱 男女比 3~4:1
定義:チックという一群の神経精神疾患のうち、音声や行動の症状を主体とし慢性の経過をたどるものを指す。
症状:①運動チック:顔面の素早い動き(まばたき、顔しかめる)首振る、腕や肩を振り回す、体をねじったり揺すったり、自分の体を触ったり叩いたりする、口の中を噛む、他人の体や周囲の物などを触る。 ②音声チック:咳払い、短い叫び声、汚言症(罵りや、卑劣な内容)、唸り声、ため息
治療:向精神薬による薬物療法が一定の効果
DCD:Developmental Cordination Disorder
疫学:約5% 男女比 2~4:1
症状:協調的運動がぎこちない、あるいは、全身運動(粗大運動)や微細運動(手先の操作)がとても不器用な障害で、学習や日常生活に大きな影響を及ぼしている場合をいう。LDやADHDとの合併が3割~5割 精神遅滞との合併も一部認められる。体育や音楽、図工が極端に苦手な子供はこの障害の可能性有る。縄跳び、ラジオ体操、ボール投げ、まりつき、自転車乗り、楽器の演奏、図工で道具使用などが困難。
疫学:約5% 男女比は 3:1 4分の3は治療の有無にかかわらず時間と共に解決
症状:2歳で発症することが多い どもり(差別用語・放送禁止用語) 言葉が円滑に話せない疾患
きっかけ:①耐え難いストレス(いじめ、しかられた、過度のしつけ) ②家系に吃音者 ③左利きを強制 ④好ましくない言語環境(どもりを叱り過ぎ)
AS:Asperger Syndrome
疫学:1% 男女比は 4:1
症状:自閉症スペクトラムの1型 社会的コミニュケーションの困難 狭い興味 反復行動 IQは少なくとも平均以上であり、知能の遅れはない 苦手なことは他人の情緒を理解すること
併発症状:睡眠障害 精神疾患(うつ病60%、不安、強迫神経症、摂食障害、統合失調症)身体的疾患(神経炎、胃腸障害、てんかん)
治療薬:正式承認薬は無し うつ病、不安障害といった二次障害の症状を軽減する薬
例えば、他の人と話している時に、自分のことばかり話してしまって、相手の人にはっきりと、「もう終わりにしてください」と言われないと、止まらないことが良くあります。
周りの人から「相手の気持ちがわからない、自分勝手でわがままな人」と誤解されてしまいます。
でも、大好きな電車のこととなると専門家顔負けの知識をもっていて感心されます。
次のような特徴があります。
例えば、大事な仕事の予定を忘れたり、大切な書類を置き忘れたりすることが良くあります。
周りの人にはあきれられ、「何回言っても忘れてしまう人」と言われてしまいます。でも、気配り名人で困っている人がいれば誰よりも早く気づいて手助けすることができます。
このように、不注意やミスが多いと指摘されて来院されることがほとんどですが、他に次のような特徴が有ります。
例えば、会議で大事なことを忘れまいとメモをとりますが、本当は書くことが苦手なので、書くことに必死になりすぎて、会議の内容が判らなくなることがあります。後で会議の内容を周りの人に聞くので、周囲から、「もっと、要領よく、メモを取ればいいのに」といわれてしまいます。他に次のような特徴が有ります。