りんご病

りんご病とは

別名「伝染性紅斑」とも呼ばれ、単鎖DNAウイルスであるヒトパルボウイルスB19による感染症です。典型例では両頬がリンゴのほっぺのように赤くなることからこの名称がつけられました。

両頬の紅斑以外にも、四肢にレース様または網目状の紅斑性発疹が出現します。幼児・小中学生に多い伝染病として知られています。

実際には、典型的な症状ではない例や、症状が現れないケースもあり、様々なタイプの症状の出現が明らかになっています。

顕性感染率(感染して症状が現れる)は小児期には80~90%ですが、成人では40%程度に低下するために、感染に気づかれない場合もしばしばです。

流行時期としては春に多いのですが、周年性に見られます。

罹患する年齢は、4~15歳が70%を占めます。

流行期には保護者なども感染します。

感染経路

主たる感染経路は飛沫感染で、咳やくしゃみによる唾液や気道分泌物が原因で感染します。

接触感染も起こります。

感染後約1週間で軽い感冒様症状を示すことがありますが、この時期にウイルス血症を起こしており、ウイルスの体外への排泄量が最も多くなります。

したがって、感染期間は感染後1~2週間です。発疹は感染後2~3週間で出現しますので、発疹発現時はすでに感染力が無く、患者のウイルス排出は止まっています。このことから、リンゴ病の診断がついた後に、感染防止のために保育園・幼稚園や学校を休ませる必要はありません。

症状

ヒトパルボウイルスB19感染症は、感染後7~10日に見られる風邪症状と、感染後2~3週間に見られる発疹(紅斑)と、それに続く関節炎症状の、二相性になります。

したがって、潜伏期間は、風邪症状出現時期までは7~10日、紅斑出現時期までは2~3週間ということになります。

風邪症状は通常の感冒と同じく、発熱、倦怠感、頭痛、筋肉痛等です。この感冒症状は軽度の事が多く、自覚されないこともしばしば有ります。熱も微熱程度もしくは平熱です。

発疹の特徴は、典型的には、両頬の紅斑と、頬に1~2日遅れて発生する四肢、特に上腕と大腿部のレース様または網目状の赤色発疹です。発疹の範囲が広い患者では胸腹部、背部にも見られます。

成人の場合は、両頬の発赤は見られることが少なく、風疹様の発疹を示したり、発疹は無く、関節炎症状のみのことも有ります。成人の発疹は手足に出ることが多く、痒みを伴うことも有ります。

関節炎は特に成人女性に多く見られ、通常2~3週間以内に治りますが、数か月も続く患者さんも見受けます。関節が朝こわばることもあり、膠原病である関節リウマチやSLEとの鑑別が必要な事も有ります。ちなみに、関節炎の頻度は、成人男性では約30%、成人女性では約60%と高率で小児では10%以下であると報告されています。

発疹は約1週間で消退しますが、2~3週間は日光、入浴、運動などの刺激で再発することもあります。発疹の痒みは軽度に収まります。

診断

血清中の抗B19抗体(lgM、lgG抗体)を測定します。

また、血清中のB19抗原もしくはウイルスDNA検出する方法も有ります。

合併症

ヒトパルボウイルスB19が問題なのは、このウイルスに感染すると、赤血球の増殖が一時的に止まってしまうことです。このことから妊婦や貧血患者に合併症を引き起こします。

通常、赤血球の寿命は4か月ほどなので、一時的な増殖停止が有っても貧血にはなりません。

しかし、妊婦では胎児にも感染するので、胎児での赤血球の増殖が止まると、胎児が貧血になってしまいます。重症例では胎児水腫という、水で膨らんだ状態になってしまうことが有ります。この場合、胎児の皮膚がむくみ、腹水や胸水、心嚢水が貯留します。

ただし、風疹ウイルスのような先天異常は有りません。

妊婦の抗体保有率は約30%に過ぎないと言われています。よって、妊婦の半数以上は免疫を持たないため、感染する危険が有ります。妊婦が感染するとウイルスは胎盤を経て胎児に感染します。感染を来たした場合、上記の機序で貧血が生じます。妊婦感染した場合の約10%は流産や死産となり、約20%は重症貧血状態となり、全身に浮腫をきたす胎児水腫になります。

妊娠前半期はより危険性が高いと言われていますが、後半期にも胎児感染は生じるとの報告もあります。

また、血液疾患などで赤血球の寿命が短くなっている人は、あっという間に貧血になってしまい、その結果、重症貧血へとなってゆきます。

溶結性貧血の患者では、赤血球の寿命が短いので、強度の貧血になる事が有ります。

血小板減少性紫斑病や、稀には無菌性髄膜炎が合併することも知られています。

免疫不全患者では、VAHSウイルス関連血球貪食症候群になる事が報告されています。

予防法

予防接種は開発されていません。

リンゴ病の特徴である、紅斑出現時期には殆ど感染力はありませんが、反対にウイルス排泄時期には特徴的な症状が現れないために、診断には至らず、効果的な二次感染の予防策はありません。

治療

特効薬は無く、対症療法となります。

合併症が生じた場合はそれに対応する治療が行われます。

保育園・幼稚園の登園、登校

厚生労働省の感染症対策ガイドラインでの登園基準では、「症状が回復した後」登園可能となっています。

一般的には、登園の目安は「全身状態が良いこと」となります。

小学校、中学校もそれに準じた扱いとなります。