胃腸に病原体が入り込んで、胃腸の働きを悪くするために、急に吐いたり、下痢したり、腹痛を訴えます。
一般的に『おなかの風邪』『はきくだし』『嘔吐下痢症』『感染性胃腸炎』など、さまざまに呼ばれています。
ウイルスや細菌などの病原体により炎症が発生し、腹痛、嘔吐、下痢などの消化器症状を起こしたものです。
大きく分けて、ウイルス性胃腸炎と細菌性胃腸炎に分けられます。
①ウイルス性胃腸炎:ノロウイルス、ロタウイルス、エンテロウイルス、アデノウイルスなどが有ります。
②細菌性胃腸炎:カンピロバクター、サルモネラ、ブドウ球菌、腸炎ビブリオ、病原性大腸菌などが有ります。
腹痛、悪心、嘔吐、発熱、下痢、頭痛、食欲不振、倦怠感など様々です。
ウイルスや細菌などの種類や、患者の体力によっても症状の強さはまちまちです。
胃腸炎で最も怖い症状が脱水です。
激しい嘔吐や下痢が続いた場合に引き起こされる症状ですが、乳幼児や年配の方は特に脱水傾向になりやすいので、注意が必要です。
感染性胃腸炎はウイルスや細菌など微生物によるものですが、多くを占めるのがノロウイルスです。感染経路は、人から人への感染が主で、感染者の嘔吐物や便を触った手や、その手で触れた物を介して口に入り感染します。
他にも、汚染された水や食品(貝類)を加熱殺菌せずに口に入れると感染します。
高温多湿の時期によく食中毒が発生しますが、原因は細菌性のことが多く見られます。細菌性食中毒は、大きく感染型と毒素型に大別されます。
感染型細菌性食中毒は、細菌が腸管内で増殖することで発症します。原因菌は、カンピロバクター、サルモネラ、腸炎ビブリオ、病原性大腸菌などが有ります。
毒素型細菌性食中毒は、細菌が増殖することにより産生された毒素により食中毒症状を引き起こすもので、原因菌は、O-157腸管出血性大腸菌、セレウス菌、黄色ブドウ球菌、ボツリヌス菌などが有ります。
大多数はウイルスや細菌ですが、他の原因として、植物性(毒キノコなど)・動物性(ふぐなど)の自然毒、化学性物質(抗生物質など)、寄生虫などが有ります。
原因となるウイルスや、細菌の種類により特色が異なりますので、代表的な病原体の特徴と予防について示します。
全てに共通する予防事項は、指先の洗浄と、調理器具の洗浄殺菌です。
12月に発生のピークをむかえます。胃腸風邪としてヒトからヒトへ感染しますが、食中毒の原因としても圧倒的に最多を数えます。
小腸上皮でウイルスが増殖し、胃の運動低下・麻痺を伴います。潜伏期間は1-3日で、症状として腹痛、下痢、悪心、嘔吐の症状を引き起こし、軽度の発熱、頭痛、倦怠感がみられることもあります。
予防は、手洗いの励行、食材の加熱(85~90度90秒以上)、嘔吐物や下痢便の処理を徹底して行います。アルコール消毒は無効なため、塩素系漂白剤が使われます。
予防は、手洗いの励行、特に、食事前に流水でしっかりと手洗いすることが大切です。
手洗い後は感染を広げる可能性のある布のタオルではなく、使い捨ての、ペーパータオルの使用が有効です。トイレからの感染も多いため、レバー、ドアノブ、蛇口など必要に応じて消毒します。嘔吐した時は、吐物を丁寧にふき取り、周囲を消毒し、使用したぞうきんやペーパータオルはビニール袋に入れて廃棄しましょう。
春に発生のピークがあります。
生後6ケ月から2歳前後の子供が感染し易く、殆んどが5歳までに一度は経験します。大人が感染することもありますがほとんど軽症か無症状です。
幼児の初回感染は症状が重く、38度以上の高熱、下腹部痛、悪心嘔吐、水様便、が3~4日続きます。2度目の感染は軽くなります。
小児用内服のワクチンが有り2回接種もしくは3回接種が行われます。
年間を通して発症する傾向が有ります。
アデノウイルスは50種類以上の型が有り、それぞれ症状が異なりますが、小さな子供に感染し易く、咳や鼻水等、一般的に風邪と呼ばれる症状をはじめ、胃腸炎・結膜炎・膀胱炎などさまざまな症状を引き起こします。
予防は手洗いです。
いわゆる食中毒の原因菌となりやすく、夏季に発生のピークがあります。
主に海水中に生息する細菌であり、汚染された魚介類を生食することでヒトに感染して食中毒を発症させます。
6~12時間の潜伏期間の後、激しい腹痛を伴う下痢が主症状です。嘔吐発熱がみられることもあります。
イカや貝類が比較的多く見られますが、その他の一般魚類の生食でも起こります。
日本や東南アジアに多い疾患です。
元来魚の生食習慣のないヨーロッパやアメリカにはあまり見られない疾患でしたが、近年の寿司や刺身の世界的普及に伴い地域は広がっています。
真水や高温、低温に弱い菌なので、魚介類は新鮮なものでも良く真水で洗い、短時間でも冷蔵庫保存しましょう。加熱60度10分間で死滅します。
食中毒の原因菌として知られています。
頻度としてはノロウイルス、カンピロバクターに次いで3番目に多いものとされます。
潜伏期間12~48時間で、発症し、腹痛、下痢、嘔吐、発熱などの症状がでます。
発育温度は10度以上で、特に20度以上になると良く増殖し、発育至適温度は37度と言われています。汚染されるのは卵(加工品を含む)、食肉製品、乳製品などです。食中毒案件が多いのは、洋菓子、オムレツ、牛レバー刺し、卵納豆、自家製マヨネーズ、だしまき卵、卵入りどんぶり、とろろ、卵焼き、すっぽん、ウナギなどの淡水養殖魚介です。
卵かけご飯に代表されるたまごの生食習慣(世界的に珍しい)ですが、必ず賞味期限内のなるべく新鮮な物を食べましょう。サルモネラは熱抵抗性が弱く、十分な加熱で死滅します。肉・卵の加熱は75度以上1分以上の処理をすれば大丈夫です。肉・卵の低温管理は、4度以下が推奨されます。
他に注意すべきは、ペットに触れた後は十分に手を洗うこと、生肉や卵などを扱った手指や調理器具はよく洗い消毒します。
ゴキブリ、ネズミなどの駆除対策も感染予防に有効です。
カンピロバクターは食中毒菌に指定されています。日本で発生する食中毒の中で発生件数が多くノロウイルスに次いで2番目に多くの件数が報告されます。(年により多少の変動が見られます)
潜伏期間は1-7日とやや長めで、症状は他の細菌の食中毒と同様、下痢、腹痛、嘔吐などが見られますが、特徴的なことは、頭痛に代表される中枢神経症状が有る事です。
カンピロバクターには多くの種類が有り、ニワトリ、ウシをはじめペット、野鳥、野生動物など、あらゆる動物に常在する細菌です。
乾燥にとても弱く、通常の加熱処理で死滅することが知られています。
ヒトへの感染は、カンピロバクターに汚染された食品、飲料水の摂取や、動物との接触によって起こります。中でも鶏肉からの感染が多く、そのほとんどが、生や、加熱不足の鶏肉を食べることによって発生しています。この他、殺菌不十分な井戸水の飲用による感染もあります。
治療は脱水の管理と、抗菌薬、整腸剤の服用です。
対策として、肉と他食品の接触を防ぎ、加熱を65度以上数分間することにより、危険が減少します。
O157は、病原性大腸菌の1種です。 潜伏期間は数日で、症状として、腹痛、下痢、血便が特徴的で、ベロ毒素産生により溶血性尿毒症候群、脳症を引き起こすこともあります。O-157に対する特有の予防法は無く、一般的な予防対処法と同様です。
O-157は加熱に弱く、8度以下では殆ど増殖しないので、低温管理・加熱処理の励行、とくに牛肉は75度1分以上の加熱をします。
調理の前、食事の前に必ず手を洗う。生野菜はよく洗う。食材は食べる直前まで充分(8度以下)に冷やしておく。など気を配ります。
黄色ブドウ球菌はヒトや動物に常在する細菌です。
潜伏期は短く、2~3時間で発症します。症状は嘔吐に集中することが特徴で、時に腹痛や下痢を伴います。症状が激しい場合には、ショック症状に陥ります。
食品中で増殖した黄色ブドウ球菌が産生する黄色ブドウ球菌エンテロトキシン毒素の摂取が原因で発症します。この毒素は耐熱性で、食品を加熱してブドウ球菌そのものが死滅しても、そのまま残存します。100度30分間の加熱でも無毒化されません。このような食中毒を毒素型食中毒と呼びます。
ケースとしては、毒キノコを食べた場合に近いと考えてよいでしょう。
サルモネラや病原大腸菌などの場合は生きた細菌が腸内に感染することにより発症する感染型食中毒で、黄色ブドウ球菌とは食中毒のタイプが異なります。
治療は黄色ブドウ球菌自体が体内に入る感染症ではないため、抗菌薬の投与は不要です。輸液により水分、カロリー、電解質を補充することにより改善します。
予防として手荒れや化膿創の有る人は食品に直接触れない。食品の低温保存が大切です。
ウエルシュ菌はヒトを含む動物の常在腸内細菌です。一般にビフィズス菌と対比され、悪玉菌の代表とされます。毒素を産生することから食中毒の原因菌とされます。潜伏期間は8-20時間で、症状としては水様性の下痢が主症状です。
腹痛と下痢は必発ですが、嘔吐、発熱は見られません。1-2日で回復し、予後も良好です。
別名、給食菌、給食病、あるいはカフェテリア菌とも呼ばれています。
多くは食肉あるいは魚介類を使った調理品で発症します。
空気のない所でも増殖し、100度6時間の加熱にも耐える芽胞を形成するため、一度芽胞を作ってしまうと、通常の加熱では死滅しません。
大量調理時に発生することの多い食中毒なので、前日調理、室温放置は避けるべきです。調理中は良くかき混ぜ空気を送り込む気持ちで食物を扱います。
調理後は早めに食べきりましょう。保存する場合は、室温の放置を避け速やかに冷蔵庫に移します。
食中毒の全体の約0.4%を占めます。
毒素系食中毒で、症状から嘔吐型食中毒と、下痢型食中毒に分かれます。
日本のセレウス菌食中毒の大半は嘔吐型食中毒です。
潜伏期間は1~6時間で、症状は嘔吐型は激しい吐き気、嘔吐、下痢型は腹痛、下痢などです。症状は8-10時間続きます。
セレウス菌は常在菌で健康な成人の10%で腸管内にみられます。
菌は100度10分間の加熱で不活化しますが、芽胞は100度30分間の加熱にも耐えます。
消毒用のエチルアルコール消毒でも不活化されません。
原因となる食品は、チャーハン、ピラフ、スパゲッティなどの農作物、穀物を原料とする食品です。
一旦、芽胞を作ってしまうと通常の加熱では死滅しないので、芽胞ができないように、調理する量は必要最小量とし、調理後は早めに食べ、残りを室温で放置せず、速やかに冷蔵庫に保存しましょう。
対策として、コメ飯や麺類を作り置きしないで、調理後の保存は8度以下もしくは55度以上とします。(食品を10-50度で保存しない)
ボツリヌス菌は、土壌や海、湖、川などの泥砂中に分布しており、熱に強い芽胞を形成します。芽胞は低酸素状態に置かれると発芽増殖が起こり、毒素が産生されます、この毒素は現在知られている自然界の毒素の中では最強の毒力が有ると言われています。
ボツリヌス食中毒は、ボツリヌス毒素が産生された食品を摂取することにより発症します。潜伏期間は8-36時間で、症状は吐き気、嘔吐、視力障害、言語障害、嚥下困難などが現れ、重症例では呼吸麻痺により死亡します。
ボツリヌス菌は120度4分間あるいは100度6時間でようやく死滅します。
毒素は80度30分間で失活します。
通常、酸素のない状態になっている食品が原因となり易く、ビン詰め、缶詰、容器包装詰め食品、保存食品などを原因として食中毒が発生します。
容器が膨張している缶詰や真空パック食品は危険ですので廃棄しましょう。
低温保存と食前の加熱が重要です。
コレラの原発地域はガンジス川の下流域で、インド周辺の風土病です。
よくアウトブレイクを起こしますが、パンデミックには分類されていません。
昭和年代までは日本でも時々見られました。風邪とは違いますが世界的にはまだ多くの患者が発生する代表的急性胃腸感染疾患です。
毎年100~500万人もの人が感染し、死亡者は2~13万人にも達します。
コレラ菌の産生するコレラ毒素で発症。小腸上皮が侵されます。
痛みを伴わない下痢、そして嘔吐が特徴です。下痢は猛烈でコメのとぎ汁様と形容されます。
細胞内の水分と電解質の喪失により、重篤な脱水症へと進行します。
コレラには、アジア型とエルトール型があります。アジア型は無治療での致死率は75-80%にも及びますが、エルトール型はアジア型に比較すると軽症で10%以下です。
治療法は軽症例では経口補水液の投与、重症例では絶飲、絶食で点滴による水分、電解質の補給が基本です。
コレラは以前の日本人に衛生概念を植え付けた病気です。清潔、空気循環、適度な運動、節度ある食生活が病気に打ち勝つことを教えてくれました。
現在、経口コレラワクチンの接種が、リスクの高い地域で推奨されています。
予防としては、流行地域での、石鹸による手洗い、安全な調理、食品の保管、子供の糞便の清潔な処理などが挙げられます。
寄生虫性胃腸炎の中で、さまざまな原生動物が原因となりえますが、特によく見られるのがランブル鞭毛虫です。
ジアルジア症と呼ばれ、世界各地で見られる原虫感染症です。
湖や河川など淡水に住む寄生虫で、汚染された水や食べ物で感染し、小児同士でも感染します。
潜伏期間は1-2週間で、症状として、腹部けいれん、ガスの貯留(鼓腸)、げっぷ、悪臭がする水様性下痢などがあり、疲労感と食思不振も続きます。
無治療でいると、下痢は数週間続くこともあります。
治療はメトロニダゾール、チニダゾールが用いられます。
予防は飲み水の処理に気を付けること、食べ物の取り扱い上、衛生管理をしっかりすること。トイレの後に良く手を洗うことなどです。
寄生虫性胃腸炎のなかでも忘れてはならない疾患の一つです。
単細胞の寄生虫(原虫)である赤痢アメーバが様々な臓器に感染することにより発症する病気です。大腸に感染する『腸管アメーバ症』とそれ以外の臓器に感染する『腸管外アメーバ症』に大きく分かれます。腸管外アメーバ症では肝臓に膿瘍を形成することが多く、アメーバ性肝膿瘍と呼ばれます。
食物で発症するケースが多い一方、性行為感染症でもあります。
潜伏期間は2-4週間で、大腸発症の腸管アメーバ症では、血液と粘液が入り混じったゼリー状の粘血便、けいれん性腹痛、下痢、便秘などが起こります。
腸管外アメーバ症では肝膿瘍を発症した場合、発熱、発汗、悪寒、脱力、吐き気、嘔吐、体重減少、右上腹部の痛みなどの症状が現れます。
治療はメトロニダゾールもしくはチニダゾールのいずれかの抗アメーバ剤を用います。
予防としては、汚染された食べ物や水を摂取しないことが大切で、熱に弱いので、生野菜、刺身といった生食を避けます。感染し易い口や肛門を使用した性行為は避けるようにします。
迅速検査可能なのは、ロタウイルス、ノロウイルス、アデノウイルスです。しかし、基本的治療法はどのウイルスも同じで、ウイルスが特定されても特効薬が有るわけではないので、必須の検査ではありません。
便の培養検査を行います。病原菌の判定には数日を要します。カンピロバクターは特徴的な形をしており顕微鏡による鏡検によって迅速に診断ができます。
ウイルス性が疑われる場合は、経過、症状等によりおおよその診断ができます。
経過、症状等より細菌性食中毒が強く疑われる場合は、細菌を特定するため便培養検査も行うことが有ります。
ウイルス性胃腸炎には抗菌剤は無効なので、いわゆる特効薬は有りません。
対症療法が基本となり、整腸剤、制吐剤、鎮痛解熱剤等の投与が行われます。
脱水傾向にあったり、水分摂取困難な状況であれば点滴を行います。
下痢止めは毒素を産生するタイプでは毒素の排出が遅れますので使用されません。
感染型直中毒の場合は、感染した細菌の種類に応じて、抗菌剤を使用します。
その他は、ウイルス性のものに準じて治療されます。
対症療法となります。脱水が有る場合は、点滴による補液を行います。