インフルエンザはインフルエンザウイルスに感染して起こる感染症です。
インフルエンザウイルスにはA型、B型、C型の3種類が有り、ヒトに流行を起こすのは、A型とB型です。A型はヒト以外にも哺乳類のブタや馬、鳥類のカモ等水鳥、ニワトリにも感染します。B型はヒトにしか流行は確認されていません。一方、C型インフルエンザはヒトとブタに感染しますが、症状は軽微で流行はあまり報告されていません。
A型、B型インフルエンザ感染には、季節性が有り、我が国では例年12月~3月に多くの人が感染します。毎年冬を中心に流行しますが、それ以外の季節にも散発的な発生が見られます。一般的な風邪とは違い、感染力が強く、症状も重いのが特徴です。
主たる感染経路は飛沫感染です。感染した人が咳やくしゃみをすることで飛沫が空気中に散らばり、飛沫に含まれるウイルスを口や鼻から吸い込んでしまうと、ウイルスが体内に入り込み感染します。1回の咳では10万個ものウイルスが飛散しますが、さらに、1回のくしゃみでは実に200万個ものウイルスが飛散するといわれており、1.5m以内の人は吸入感染する可能性が高まります。また、あまり多くはないのですか目の粘膜からの感染も知られています。また、飛沫感染ほど多くはありませんが、接触感染も起こりえます。咳やくしゃみをする時に手で口を抑えると、その手には大量のウイルスが付着します。この手を十分洗い流すこと無しに、ドアノブなどの他の人が触れる場所や物を触ってしまうと、後から触れた人にウイルスが付着し、さらにその手で鼻や口に触れたりすると感染してしまいます。
あまり知られていない感染として、飛沫核感染=空気感染と呼ばれるものが有ります。これはインフルエンザウイルスが飛沫核となって、空気中を漂い、それを吸い込むことにより感染する現象です。室温が低く、空気が乾燥しており、締め切った小さな部屋である場合に起こりえます。
飛沫は水分を含んでいるため体内から放出された後にその重さで直ぐに下に落下しますが、飛沫核は水分がない分、軽いため長時間空気中に浮遊し遠くまで飛んで行くことができます。
飛沫核感染は麻しん、結核、水痘で知られています。
潜伏期間は通常1~2日間です。感染力のある期間は発症する1日前から発症後5~7日間です。
一般症状としては、発熱、悪寒、関節痛、全身倦怠感が急速に現れます。他にも、咽頭痛、鼻水、鼻閉、咳、痰等の気道症状の他に、悪心、嘔吐、腹痛、下痢、食思不振などの消化器症状を訴えることも有ります。発熱は、高熱(38.5度以上)を認めることが多いのですが、微熱あるいは平熱で来院され、インフルエンザ迅速検査で陽性を示す方も多く見かけます。
あまり熱もないので医療機関に受診もせず、そのまま学校、職場に行くと、ウイルスをまき散らすことになりかねません。インフルエンザシーズンには常に感染を頭に入れておく必要が有ります。
小児のインフルエンザの症状としては、何となくぼんやりとしており活気がない、顔貌が頬の紅潮あるいは蒼白で土気色になってきます。呼吸が速く息苦しそうな感じで、いつもより元気がなく遊ぶ気もなくグッタリしている印象です。手や足を突っ張り、ガタガタと震える、等もあります。小児は細かなことは言えませんから、いつもと様子が違う場合は医療機関を受診しましょう。
風邪との違いは大まかにいえば(1)発症が急激(2)38度以上の高熱(3)強い全身症状(悪寒・関節痛・倦怠感)(4)咳は強め ということになります。
発生頻度としては小児のインフルエンザの約10%に異常行動が報告されています。
抗インフルエンザウイルス薬の種類や服用の有無にかかわらず異常行動が報告されており、薬との因果関係は不明です。
異常行動発生日としては、ほとんどが、発熱当日から次の日に発生し、1~2日で軽快します。
症状としては、突然部屋を歩き回り、窓や、ベランダ、自宅から外に出ようとし、興奮して手を振ったり、不自然な行動・しぐさをします。変な訳の解らないことを言い、おびえたり、泣いたり、意味なく笑いだしたりする、等の症状です。
対策としては、なるべく親が付き添い、玄関、部屋の施錠をし、1階が有れば1階の部屋に寝かせ、ベランダの無い部屋を選びます。
迅速抗原検出キットが有りますので、鼻水やのどの粘液を綿棒で拭って採取し、検査すると5分以内に、感染の有無さらにはウイルスの型が判ります。
高熱、強い倦怠感で受診したインフルエンザ患者でも簡易検査が必ず陽性になるとは限りません。
発症後12時間以内だと、感染しているにもかかわらず、ウイルス量が少なく反応しないことが有ります。そのような場合でも、医師の診察により、症状や経過、周囲の状況などからインフルエンザと診断され、治療されることも有ります。
発症後48時間を過ぎてしまうと抗インフルエンザ薬の効果が薄くなってしまいますので、躊躇せず、早めに医療機関を受診されることをお勧めします。
体力、免疫力が低下している方には肺炎が最も警戒すべき合併症です。
発熱がおさまらず、咳が長引き、痰が絡まり、呼吸が浅く荒いなどの症状が肺炎を疑うポイントです。
小さな子供にとって重大な合併症は、インフルエンザ脳症です。
0~5歳の幼児のインフルエンザで、高熱、けいれん、意識障害が発生したら、脳症のリスクが高まりますので、速やかな脳CT、MRI等の検査が必要です。
耳の痛み、耳が塞がっている違和感、微熱が続いている、等の場合は中耳炎を疑います。
小児の中耳炎合併症は多いのですが、自分からの訴えはひどい場合に限られる事が多く、注意が必要です。
顔面の額、頬、目の奥など、鼻の周囲の痛みや、重苦しい感じが出ます。黄色い鼻汁も特徴的です。
副鼻腔のレントゲンを撮れば診断がつきます。
咳・くしゃみでウイルスを空中にまき散らさないようにマスクを着用しましょう。咳・くしゃみをする際は、周囲の人から顔をそむけてする工夫が大切です。使用後のティッシュはふたの付いたごみ袋に素早く捨て、手洗いの励行をしましょう。
感染している家族が触れるドアノブ、便座、手すりなどをアルコール製剤等で消毒します。
食器類はよく洗います。衣類や寝具はいつもの洗濯で大丈夫です。
空気中にインフルエンザウイルスが浮遊していますから、良く換気しましょう。
1~2時間に1回程度の換気が理想です。
ウイルスは湿度50%を割ると活性が増加してきますので、湿度50~60%くらいに保つようにすると予防に役立ちます。
湿度が60%を超えるとダニ、カビが大繁殖しますので注意しましょう。
パンデミックとは世界的な大流行を指します。
20世紀には、3回のパンデミックが起きました。
1918年~1919年、全世界で死者は4000~5000万人といわれています。
日本では約40万人の方が亡くなられています。
1957~1958年、極東アジア発祥のインフルエンザでした。
1968年~1969年、香港発祥のインフルエンザです。
21世紀に入り、鳥インフルエンザが、2003~2004年にアジア各国に広がりました。
パンデミックを生じるインフルエンザは全てA型です。A型インフルエンザウイルスの表面に有るスパイク(突起)は、ヘマグルチニン(HA)が16種類。ノイラミニダーゼ(NA)が9種類。HAとNAの組み合わせは、16×9=144で、亜型が144種類も存在します。この亜型のなかでも、常にわずかな変異を起こしています。このため、以前にインフルエンザにかかっても微妙に型が変化しているので免疫が役に立つとは限りません。予防注射しても完全に感染が防ぎきれないのも、この変異に原因が有ります。しかし大変異により、HAやNAが全く違う型に置き換わってしまうと、新型インフルエンザの発生となり、大流行パンデミックへとつながります。スペイン型はH1N1、アジア型はH2N2、香港型はH3N2、ソ連型はH1N1(スペイン型と同じ)で表されます。現在世界中に流行しているのは、A型H3N2、A型H1N1とB型の3種類です。
その年の冬に流行するインフルエンザの型はあらかじめ毎年予想が立てられ、それに基づきワクチンが作られます。インフルエンザウイルスが繰り返し変異していることから、完全に予防することはできませんが、多くの人が感染予防でき、流行をより小さく、また、体力が低下している方の重症化を防ぐ効果が期待できます。
13歳未満は2回接種で、13歳以上では原則1回の接種になります。1回の予防接種では2週間後から抗体量が増え始め、1か月後にピークとなり、3~5か月後には低下します。よって、12月1月2月のインフルエンザ流行シーズンを考慮すると、11月12月の接種がベストな時期となります。
感染している人の咳、くしゃみにより発生した飛沫や、空気中に漂うウイルスをなるべく吸い込まないため、マスクによる飛沫ブロックが有効です。
また、細かに室内の空気の入れ替えも効果が有ります。
患者を含めた、多くの人が触るドアノブにはウイルスが居る事が多いので、ドアノブに触れた後、そのまま目や、鼻や、口を触ると感染につながります。
触った手を洗い、できたらアルコール系消毒液で消毒すると効果が大きくなります。
普段から十分な栄養と睡眠で健康管理しておくと、インフルエンザに対する抵抗力が高まります。
学校保健法では「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては3日)を経過するまで」と記されています。発熱した日から数えると最低限6日間の出席停止が課されているのは、感染力の保持期間が関係しています。
成人は解熱してから2日間が外出自粛期間ですが、業務上可能なら発症から7日間の自粛が望ましいところです。