腸重積(小児)

腸重積とは

腸管の一部が後ろの腸管に引き込まれ、自らの腸内に滑り込んでゆき、
重なってしまい、腸閉塞(イレウス)状態を引き起こす病気のことをいいます。
典型的には小腸末端部(回腸)が大腸に入り込むために生じます。
腸管が閉塞するため腹痛や嘔吐が起こります。
小児救急の代表的な病気ですが、成人の結腸癌患者でも起こることがあります。

疫学

1歳未満では2000人に1人程度の発生率といわれています。
男児が女児の2倍多く見られます。特に4歳以上では男児に顕著に多く見られます。
生後6か月から2歳までが、かかり易い年齢で、小児患者のうち、1歳未満が65%、2歳未満は80
90%を占めます。
生後3か月~3歳の小児の腸閉塞の原因疾患として、最多となっています。
年長児にも起こりますが、原因は腸内ポリープ、メッケル憩室、腫瘍などが多くみられます。
季節変動が見られ、発生数のピークがウイルス性腸炎の流行期に一致します。

症状

代表的な症状は ① 腹痛 ② 嘔吐 ③ 血便です。
しかし、これら3つの症状が初診時に、全て見られるとは限りません。
全てがそろうのは10
50%といわれています。
腹痛、嘔吐が起こったり、治まったりを繰り返す場合には、念頭に置くべき疾患です。
小児に突然、著明な疝痛性腹痛と嘔吐が発生しますが、乳幼児は自分で症状をうまく説明できないため、突然不機嫌になったりします。
痛みが強いため普通の泣き方とは違う激しい泣き方(間欠性啼泣)となり、親など周囲の人が異変に気づくこともあります。
腹痛発作の持続持続時間は通常15~20分間です。当初は、発作が無い間は、小児は比較的健康そうに見えます。
そしてまたしばらく(5~15分位)すると激しく泣き出すといった状態を繰り返します。
触診時、腸重積が存在する右下腹部に、ソーセージ状の腫瘤を触れることがあるのも特徴の一つです。
時間が経過すると、腸管の血流が障害され、腸組織が壊死するため、腸管を走る細い血管が破れて血液が腸の中に出るため、便に血が混じります。
血液と粘液の混じった、イチゴゼリー状のまっ赤な便が特徴です。
この特徴的血便は腹痛より遅れて出現するので、腸重積は早期の加療が必要とされるため、診断のためにこれを待ってはならないとされています。
血流障害が発生すると、痛みが持続的となり。不機嫌になったり、顔色不良でぐったりした状態になり、嗜眠傾向がみられます。
壊死した腸管壁は、破れて腸管穿孔が生じることもあります。
腸管穿孔は、腹膜炎徴候を引き起こし、明白な圧痛、筋性防御、硬直、皮膚蒼白、頻脈、発汗がみられ、ショック状態となります。

原因

腸重積の多くは、小腸の終わりの腸である回腸が大腸に入り込むために生じます。
小児の場合、原因を特定できない特発性のものが9割以上を占めます。
風邪が治った後に起こりやすい傾向があることから、特発性の場合は、風邪などのウイルス感染により腸管のリンパ節が腫れて、腸の動きが制限されるために、起こりやすくなったと考えられています。
ちなみに約1/4の小児患者に感冒症状を認めます。
稀に、良性もしくは悪性の腫瘍などがこの病気の原因となる場合もあります。
時には小腸にポリープがあったり、膵臓組織が小腸に迷い込んでいたり、メッケルの憩室といって生まれつき腸管の一部が袋状に残った場合にも、これらの部分から腸重積が起こることがあります。

ロタウイルスワクチン

ロタウイルスワクチンの接種を受けてから、約1~2週間(特に6日以内)の間は、腸重積のリスクが通常より高まるとする研究報告があります。
特に、初回接種後は腸重積発症の可能性が高まるとされていますので、接種後は子供の体調を良く観察する必要があります。
ロタウイルスワクチン接種を標準より遅くから始めた場合に、発症リスクが高くなるので、生後2ヶ月になったらできる限り早くロタウイルスワクチン接種を開始する必要があります。

診察・検査

問診・触診

繰り返し起こったりする腹痛、嘔吐の有無や、血便について尋ねます。
腹部の触診ではソーセージ状の腫瘤の有無を確認します。

超音波検査

ほとんどの場合、超音波検査で診断が可能とされています。
超音波で、腸重積の場所、重なり方を確認します。
横断像ではtarget  signと呼ばれる、弓の的のような構造が見られ、縦断像ではpesudokidney  signと呼ばれる、腎臓に似た像が見られます。
さらに、腸管に血流が認められるかどうかを確認します。

注腸X線検査

造影剤を使って腸重積の箇所、重なり方を観察します。
重積している箇所には、カニの爪に似た陰影が見られることがあります。

腹部CT検査

腸重積の箇所に、入り組んだ腸管壁、腸管組織、それを包み込む肛門側の腸管からなる三重構造が見られることがあります。
また、腫瘍などの疾患の有無を確認します。

治療

自然治癒

治療を行わなくても、腸の滑り込んだ部分が正常な状態に戻る場合があります。

高圧浣腸

肛門側から管を入れて、空気や蒸留水、造影剤のどれかを、高い圧をかけながら注入し、腸に入り込んでいる回腸を少しずつ押し戻してゆく方法です。超音波やX線で観察しながら行います。
この、非観血的整復は、発症後24時間以内で子供がぐったりしていなければ、行うことができます。成功率は施設にもよりますが、8割前後といわれています。
高圧浣腸で治ったとしても、1割の子は、数日のうちに再発します。
再発は48時間以内のものが、1/3に達すると報告されています。

手術療法

① 高圧浣腸で治らない例(約1割)
② 発症から24時間以上経過し腸の壊死が疑われる例
③ 穿孔例
④ 腹部X線で腸閉塞が著明な例
⑤ 何らかの病気を原因とする例などには手術が必要な場合があります。
特に、症状発現から24時間以上経過していたり、ぐったりしている場合は、高圧浣腸せずに手術が選択されます。
開腹手術では、少しずつ滑り込んでいる腸を手で押し戻して、整復します。
腸重積の原因となるポリープや憩室などがある場合はこれを切除します。
腸の色調が悪い場合は、血流障害により腸の組織が壊死している可能性があるため、腸を部分的に切除してつながなければなりません。