過敏性腸症候群

過敏性腸症候群とは

内視鏡などの検査では大腸・小腸に炎症や腫瘍など特定の疾患がみつからないにもかかわらず、腹痛と便通異常が慢性に持続する状態です。
一般的には Iritable Bowel Syndrome 略して IBS と呼ばれています。
原因としてストレスや、食習慣、生活習慣が複雑にからみあった現代病でもあります。

原因

心理的要素

病態として、主に➀心理的異常 ②消化管知覚過敏 ③消化管異常運動 の3つの要素が挙げら、複雑に絡み合っています。
心理的要素には、ストレス、不安、抑うつ、恐怖などが含まれますが、特にストレスとの関連性が高いといわれています。
さらに、睡眠不足も影響します。

食事の要素

暴飲、暴食は消化管の異常を招きやすいことが知られています。
小腸で吸収されにくい炭水化物を含んでいる食物として、小麦、乳製品、チョコレート、コーヒー、アスパラガス、ブロッコリーなどは症状を悪化させることがあります。
高カロリー食、高脂肪食がきっかけになる事もあります。

腸炎に続発

細菌やウイルスによる胃腸炎に感染し、回復した後に続発することもあります。

腸炎に続発

急いで食べたり、長時間何も食べなかった後に食事をすると、発作が起こることもあります。

地域、好発年代・性差

日本を含めた先進国に多く見られる疾患です。
年代は10代~40代に多く見られ、増加傾向です。
男女の比較では、女性の方がやや多くみられます。
女性は便秘型、男性は下痢型が多くみられます。

検査

炎症性、腫瘍性疾患の除外と鑑別をすべく、検査が行われます。

➀ 血算、生化学検査
② 便検査(特に下痢型の患者)
③ 大腸内視鏡検査
④ 甲状腺刺激ホルモン、カルシウム(特に便秘症の患者)
⑤ セリアック病の血清学的マーカー(IgA値、IgA抗体)

この他、追加検査として、腹部超音波、腹部CT,下部消化管造影、
上部消化管内視鏡検査、小腸X線検査、便中脂肪排泄量測定、カプセル内視鏡検査などがおこなわれることもあります。

症状

腹痛、下痢、便秘、トイレの回数異常などの腹部症状が慢性的にみられます。

下痢型

下痢型の場合、緊張やストレスなどがきっかけで激しい腹痛を伴う下痢が1日に何度かおきますが、排便後は痛みは落ち着きます。
長年お腹の具合があまり良くなく、1年を通して硬い便はほとんど出ないこともあります。

便秘型

便秘型の場合、腹痛を伴う排便困難が特徴で、いきんでも便がでにくく
ウサギの糞のように小さくコロコロとした硬い便が少量しか出ないという便秘症状が見られます。

混合型

混合型では下痢と便秘が繰り返し起きます。
いずれも排便することで腹痛が楽になる特徴があります。
どちらの型にも当てはまらないタイプで、お腹にガスが溜まって腹満、膨満感を訴える方も多く見られます。

生活に支障

緊張すると手汗や脇汗などが出てきて、胃が痛くなったり、耐え難い吐き気に悩まされたりするため、トイレに行きたくなります。
残便感でお腹がスッキリしないという訴えも多く見られます。
結果として、トイレにいる間はホッとし、なかなか出てこない人もいます。
直接命に関わる疾患ではありませんが、日常のあらゆる場面で症状がでてくる可能性が有り、生活に支障を来たしかねません。
徐々に仕事や学校を休みがちになります。

診断

診断基準

診断には国際的診断基準である Rome Ⅳ 診断基準が用いられています。

【Rome Ⅳ 診断基準】
少なくとも診断の6ヶ月以上前から腹部症状が出現し、直近3か月間で、
月4日以上腹痛があり、さらに下記の症状に2つ以上あてはまる場合には、過敏性腸症候群と診断されます。

(1)排便と症状が関連する
(2)排便頻度の変化を伴う
(3)便形状(外観)の変化を伴う

除外診断

通常の臨床検査により、悪性腫瘍や炎症性腸疾患など器質的疾患がないことを確認します。

臨床検査

特に、血便、体重減少、発熱がみられる場合には、大腸内視鏡をはじめとする臨床検査を行います。

治療法

治療は生活習慣の改善を進めながら、投薬治療を併行しておこなっていきます。

生活習慣改善

食事の時間帯を規則正しくし、栄養バランスに気を付け、暴飲暴食や、アルコールの多飲を避け、脂肪分の摂りすぎにも注意が必要です。
ヨーグルトなどの腸刺激物は避けなければなりません。
休養や睡眠をしっかりとり、適度な運動が推奨されています。

ガイドライン

日本消化器学会の機能性消化管疾患診療ガイドラインに沿うのが効率的です。
これは第1~3段階からなるもので重症度にも即しています。

第1段階

主要症状の腹痛、下痢、便秘に応じた治療薬を選択していきます。

➀ 下痢型男性
   イリボー(5μg
)1錠 朝食前
   副作用として重篤な便秘や虚血性大腸炎があります。

② 下痢型女性
   イリボー(2.5μg)1錠 朝食前
   女性の服用量が男性の半分ですので注意が必要です。

③ 便秘型
   リンゼス(0.25mg)2錠 朝食前 1日1回
   副作用として重度の下痢に注意が必要です。

④ 症状の型を問わず使用できる
   セレキノン3錠 消化管運動機能改善薬
   ミヤBM細粒3g 整腸剤
   ポリフル(500)6錠 高分子重合体
   (膨潤型高分子樹脂なので途中でつかえぬように十分量の水で飲む)

⑤ 上記で改善が無い時
   ブスコパン錠(10)1回1錠 腹痛時屯用
   ロペミンカプセル(1)1回1カプセル 下痢時屯用
   アミティーザカプセル 1回1カプセル 1日2回
   (慢性便秘型に適応)
   酸化マグネシウム細粒 1日1~2g 1日3回に分けて

以上の薬剤を勘案して投与し、4~8週間続け、改善傾向ならば、治療の継続、或いは治療終了とします。
改善傾向になければ、第2段階の治療に入ります。

第2段階

精神面からの、治療を行います。
ストレス、心理的異常の症状への関与を判断していきます。
病態としてうつが優勢であるのか、不安が優勢であるのかを判断します。

➀うつを伴う場合
下記のいずれかを服用します。
(ノルアドレナリン・セロトニン作動性抗うつ薬NaSSA)
  リフレックス(15) 1錠 眠前
  パキシル(10) 2~4錠 眠前
  サインバルタ(20) 1カプセル 朝

いずれも吐き気、眠気などの副作用が有り、効果発現までには日数が必要です。

②不安を伴う場合
軽症は非ベンゾジアゼピン系薬剤を使用します。
  セディール(10) 3錠 食後
通常の不安抑制にはベンゾジアゼピン系薬剤を使用します。
  メイラックス(1) 1錠 朝
急な不安の抑制は
  ワイパックス(0.5) 1回1錠 不安時屯用

③漢方薬
下痢型に用いる漢方薬は
  ツムラ桂枝加芍薬湯 7.5g 1日3回

便秘型に用いる漢方薬は
  ツムラ大建中湯エキス顆粒 15g 1日3回

第3段階

薬物療法が無効な場合は心身医学療法の適応があります。
心身医学療法には、簡易精神療法、認知行動療法、自立訓練法、催眠療法、マインドフルネス、絶食療法などがあります。
領域的には心療内科や精神科との連携が必要な状況も考えられます。