メニエール病

メニエール病とは

名称は内耳性めまいを最初に報告した、パリの医師プロスペル・メニエールに由来します。
発作性、反復性の回転性めまいが起こり、耳鳴や耳閉感、感音難聴を伴う内耳の病気で、内リンパ水腫が原因とみられています。

疫学

☆ 発症年代
発症の年代は主に20歳~50歳の間にあります。
ピークは30歳代後半から40歳前半です。

☆ 男女差
女性に多いとされますが、男女あまり変わらないとする報告もあります。

☆ 有病率
人口10万人当たり、15~18人程度です。

☆ めまい患者の内訳
めまい患者のうち、メニエール病の患者は5~10%程度です。

☆ 気候との関連
気候の変化により、低気圧、台風などの前線の接近で、気圧が急に下がった時に発症することが多いと言われています。

☆ なり易い人
やせ形で、几帳面、神経質な性格の30~40代の女性がなり易いという統計があります。

遺伝

本症に遺伝は認められていません。


症状

☆ 主症状
発作時の主症状は、めまい、難聴、耳鳴、耳閉感の4症状です。
この4症状が同時に起き、症状が一旦治まっても、その一連の症状を、数日から数か月の間隔で繰り返します。

☆ めまい
突然出現する、回転性めまい発作で、立つこともできないほどです。
回転性めまいは、自分もしくは周りの景色がグルグル回る状態です。
めまいの持続時間は、通常1~6時間で、稀に24時間続くこともあります。
間隔、頻度は一定しません。
内耳疾患であり、脳に異常はないため、目はグルグル回り、外から見ると、眼振が見られます。
頭を動かすと症状がさらに強くなるため、自発的に頭を動かすことが困難になり、当然、歩行も難しく、トイレにも這っていくほどです。便座にもまともに座ることもできないため排尿も困難になることもあります。
発作の初期はめまいと自律神経症状が前面に出てきますが、めまい発作を繰り返すうちに、耳鳴や難聴、聴覚補充現象(難聴が有るにもかかわらず、音の感じ方がとても敏感になる現象)が起きるようになり、さらに進行すると、平衡機能の乱れが常態化するようになります。

☆ 難聴
メニエール病の原因となる、内リンパ水腫は通常一側性のため、難聴は通常片側に起こります。しかし、そのうち20~30%は両側性に移行します。
初期には低音が聞き取りにくくなることが多く、発作を繰り返すうちに、中音域、高音域の音も聞き取りにくくなる傾向があります。
難聴の型は、感音性難聴に分類されています。
三半規管内の水が増えることでメニエール病が発症しますが、この水は、聴覚器官の蝸牛と共有しているため、めまいと同時に難聴も起こります。
繰り返し起こる発作で徐々に難聴は進行する傾向があります。

☆ 耳鳴
メニエール病の無症状期間は1年を超えることもありますが、疾患の進行に伴い聴覚障害が持続、悪化し、耳鳴も時々の状態から絶えず続くようになることもあります。

☆ 耳閉感・圧迫感
ほとんどの患者は、患側耳に耳閉感、圧迫感を訴えます。
大半は片耳のみの障害です。
メニエール初期にはめまい発作前にも耳閉感、圧迫感を感じます。

☆ 随伴症状
強いめまい発作では、自律神経症状を併発します。
すなわち、発作時に、悪心と嘔吐を伴い、冷汗、動悸、下痢、顔面蒼白、異常な寒気、暑さなどの温感異常、不安定歩行なども出現することがあります。

脳は侵されず、患者の意識ははっきりしています。

☆ もう一方の耳
一般に片方の耳にこれらの症状が起こりますが、何度も繰り返すことにより、やがて、半年から10年ほどでもう一方の耳にも発症することもあります。


原因

メニエール病の原因は、まだ完全には解明されていません。
聴覚に関係する蝸牛内部のリンパ液が過剰になる状態を『内リンパ水腫』と呼びますが、これが、メニエール病の根本原因とされています。
内耳には、体の平衡感覚をつかさどる「半規管」と「耳石器」、鼓膜から伝わってきた音の振動を電気信号に変えて、脳に伝える「蝸牛」があります。
蝸牛の内部は「前庭階」「蝸牛管」「鼓室階」に分かれており、蝸牛管と鼓室階は「外リンパ液」に、前庭階は「内リンパ液」に満たされています。
内リンパ液の産生と吸収のバランスが何らかの原因で崩れ、内耳に内リンパ液が過剰にたまって膨れ上がった状態が「内リンパ水腫」です。
内リンパ水腫になると、膜の内圧が高まるために神経が圧迫されて「耳が詰まる」「軽い難聴」という状態となり、持続すると膜迷路が破れ、内外リンパ液が混ざりあって、感覚細胞が刺激を受け、めまい、難聴、耳鳴などが発生します。
しかし、内リンパ液が流出して内圧が低下すると、破れた部分が癒着して塞がるため症状が治まります。
メニエール病のではこの一連の過程が繰り返されます。


予防

☆ ストレスを避ける
メニエール病の原因に、ストレスが大きく影響しているとされるため、十分な休息をとり、日頃からリラックスを図るようにして、精神的負担を少しでも軽くしましょう。
ストレス疲労があると、反復、悪化することがありますので、ストレス原因の究明と改善が必要です。

☆ 規則正しい生活
過労や睡眠不足を避け、1日の生活リズムを作りましょう。

☆ 嗜好
飲酒と喫煙をひかえ、食事の時に塩分を摂りすぎないよう注意しましょう。


診断

以下のような診断基準が用いられます。
① 数十分から数時間の回転性めまい発作が反復する。
② 耳鳴・難聴・耳閉塞感がめまいに伴って消長する。
③ 諸検査で他のめまい・耳鳴・難聴を引き起こす病気が鑑別(除外)できる。
上記の①②③を満たせばメニエール病と確定診断します。
また、①と③、あるいは②と③のみの場合にはメニエール病の疑いとします。

その他
a) 聴力検査で低~中音域の聴力低下が認められる。
b) めまい発作時には眼振が観察される。
c) グリセロール検査(利尿薬のグリセロールを飲み、薬服用3時間後に聴力改善を認めれば内リンパ水腫の存在を疑う)が陽性となる。
d) 蝸電図検査(耳の穴の中に電極を置き、音に対する内耳の反応を記録する)で内リンパ水腫に特有な反応が認められる。
などの所見が診断の参考になります。

鑑別すべき疾患

回転性めまいと聴力低下を来たす疾患は以下のものがあります。
突発性難聴、聴神経腫瘍、内耳炎、真珠腫性中耳炎、内耳梅毒、脳血管障害、脳神経障害、外リンパ瘻などです。
この他、めまいを主訴に、鑑別を要する疾患には、次のようなものが挙げられます。

良性発作性頭位めまい症、前庭神経炎、ハント症候群、自律神経失調症、心因性めまい、頸性めまい、貧血、低血圧症、高血圧症、低血糖症、甲状腺機能異常、薬剤性めまいなどあります。


検査

メニエール病には低音域の難聴が有るので、純音聴力検査は必須です。
また、内リンパ水腫の検査として、グリセロールテスト、フロセミドテスト、蝸電図などがあります。
他に耳疾患の検査として、カロリックテスト、ABLBテスト、SISIテスト、自記オージオメトリ―、眼振検査、平衡機能検査があります。
他科にまたがる疾患の鑑別検査として、頭部CT、頭部MRI、頚部レントゲン、血液検査などが行われることもあります。


治療法

☆ 安静
めまい発作が起こった時は、先ず安静にして、発作のきっかけとなった、ストレスやトラブルの解消につとめ、ライフスタイルの健全化を行います。

☆ 食事
内リンパ水腫を改善させるため減塩食とします。

☆ 薬物療法
第一選択は内リンパ水腫を軽減させるために、イソソルビド(商品名イソバイド)等の利尿剤が使われます。
その他、内耳の血液循環改善剤や、炎症を抑える目的でステロイド剤などが使用されますが、メニエール病の病態が、内リンパ水腫であること以外、病因の詳細が明らかでないため、対症療法が広く行われます。
すなわち、病気、症状に合わせて薬が用いられ、上記の薬品以外にも、めまいや吐き気、嘔吐を抑える鎮暈剤、制吐剤、精神安定剤、さらには、自律神経調整剤、ビタミンB12製剤などが用いられます。

☆ 手術
発作が頻発したり、発作の間隔が短くなったり、聴力の低下が見られるようなら内リンパ嚢開放術や前庭神経切断術が検討されます。
① 内リンパ嚢開放術
過剰な内リンパ液を排出させる穴をあける手術で、再発率は20~30%です。

② 前庭神経切断術
めまいの原因の平衡感覚を司る神経を切断します。手術難易度はより高く、適応は慎重に検討されます。再発率は5%以下です。


予後

メニエール病は簡単に治る病気ではありませんが、適切な治療をすれば、、反復する発作を落ち着かせ、耳鳴や難聴の悪化をある程度、防ぐことが出来ます。
早期に適切な治療がなされると予後は比較的良いのですが、10~20%は、発作の再発、長期化が見られます。
病気が進行し、難聴や平衡感覚の乱れが常態化すると難治です。
難聴の自然な進行を予防する方法は知られていません。
進行した場合、10~15年以内に中等度から高度の感音性難聴が生じます。
進行が長期にわたると、中には両側性にメニエール病が進行するものがあります。両側メニエール病がさらに進行すると、やがて平衡機能が廃絶します。平衡感覚が乱れ、難聴、耳鳴、補充現象などの症状が固定化し、不治となってしまいます。
メニエール病が直接生命に危険を及ぼすことはありません。


メニエール症候群

ハンガリーの耳鼻科医ポリッツアーは、1867年にめまい、耳鳴、難聴の三主徴症状がそろった疾患にメニエール症候群という疾患名を提案しました。この時代には、内リンパ水腫は発見されておらず症状に対してつけられた症状名で、現代では徐々にこの疾患名称は、使用されなくなってきています。

しかし、過去の流れで、現在でも、医師によっては内リンパ水腫を推定すること無しに、メニエール病の診断基準に基づかずに、めまい患者を安易にメニエール病もしくはメニエール症候群という名称をつけることもあります。