マイコプラズマ感染症

マイコプラズマ感染症とは

病原微生物

マイコプラズマニューモ二エという病原生物が気道に感染することにより、発症します。
マイコプラズマニューモ二エは通常、単にマイコプラズマと呼ばれます。
生物学的には細菌に分類されますが、他の細菌と異なり細胞壁を持たず、サイズが非常に小さく、ウイルスと一般細菌の中間の大きさです。

異形肺炎

ヒトにおいてはしばしば肺炎を引き起こすことで知られています。
マイコプラズマ肺炎の患者は、一般の細菌性肺炎の患者と違い、重症感が少なく、胸部レントゲン像も異なるために、従来、異形肺炎と呼ばれる一連の肺炎群に属しましたが、その後、異形肺炎の大部分をマイコプラズマが占めることが判り、徐々に、異形肺炎の名称は使われなくなりました。

疫学

疫学的には以前、4年に1度オリンピックの年に流行する傾向があったため、「オリンピック熱」とも呼ばれましたが、最近ではその傾向は薄れつつあります。
また、喫煙者は感染しにくいことが報告されています。

小児の肺炎

マイコプラズマ肺炎は小児や若い人の肺炎の原因としては、比較的多いものの一つです。
例年、マイコプラズマ患者として報告されるもののうち約80%は14歳以下ですが、罹患年齢のピークは7~8歳にあります。
一方、成人の報告も多数みられます。
他の肺炎と比較すると、症状が軽いため、自覚症状的には普通の風邪と区別がつきにくいという点があります。

季節

季節的には冬季にやや多くなりますが、1年を通してみられます。

感染経路

飛沫感染

主たる感染経路は飛沫感染で、唾液や気道分泌物により拡散しますが、細菌が付着した手で、口や鼻に触れることによる接触感染もあります。
マイコプラズマ本体が気道に侵入すると、粘膜表面で増殖を開始し、上気道、あるいは気管、気管支、細気管支、肺胞など下気道の粘膜上皮を破壊してゆきます。

感染時期

病原体の排出は初発の症状発現前、2~8日からとされ、臨床症状発現時にピークとなり、高いレベルが1週間続いた後、4~6週間以上排出が続きます。

感染力

感染力はインフルエンザやノロウイルスほど強くないため、感染には濃厚接触が必要と考えられます。
地域での感染の速度は遅く、通勤電車などの短時間での暴露による感染拡大の可能性は少ないとみられています。
保育園、学校、会社など集団での感染が見られますが、特に家族内や、友人間の感染が多く発生しています。

症状

潜伏期間

潜伏期間は長く、通常2~3週間です。

経過

微熱(時に38度以上の高熱)と咳で発症します。
発症後、頭痛、咽頭痛、全身倦怠感、食思不振、鼻水、鼻閉、などいわゆる感冒様症状を呈します。
咳がひどい場合は呼吸困難、不眠となります。咳は熱が下がった後も、3~4週間の長期にわたり頑固に続くのが特徴です。
喀痰を伴わない乾いた咳(乾性咳嗽)で、夜間に刺激性の咳発作が生じることもあります。
また、下痢、嘔吐、腹痛などの消化器症状を訴えることもあります。
最近では大人が感染して重症化するケースも増えています。

免疫

感染により特異抗体が産生されますが、生涯続くものではなく、徐々に減衰してゆきます。
その期間は様々です。また、再感染もよくみられます。
1歳までに40%、5歳までに65%、成人では95%以上が感染を受けているといわれています。

診断

症状

特徴的な長期にわたる、しつこい咳が有れば、念頭に置くべき疾患です。

胸部聴診

症状がひどくなると乾性ラ音(ピー、ヒュー等)を聴診器で聴取することが多くなります。

胸部レントゲン

マイコプラズマ肺炎の一般的特徴は、下肺野のスリガラス様の陰影ですが、実際には、多様な肺炎像が認められます。

一般血液検査血液検査

白血球数は正常もしくはやや低下し、CRPは陽性を示し、GOT、GPTの一過性上昇を認めることもしばしばあります。
マイコプラズマの血清抗体価の上昇を認めます。

IgM抗体

マイコプラズマ抗体(IgM抗体)は診断レベルに上昇するのに発症後5~10日かかるため、早期診断は難しいとされています。
小児におけるIgM抗体は感染後も陽性が持続する場合も多く、注意が必要です。
成人におけるIgM抗体の産生は極めて少なく、感染初期にもかかわらず、陽性化しない場合もあります。
感染後は少なくとも3ヶ月、長ければ数年にわたり検出されます。
よって、IgM抗体は、急性期でなくても、陽性を示すことも多いので、陽性結果は、IgM抗体の存在を意味するものではありますが、それが急性感染の存在を確定するものではありません。
このことに留意して、他の所見とも併せ、総合的に判断する必要があります。
インフルエンザや溶連菌感染症の迅速診断法は、病原体そのものの検出を行うものであり、より正確なのですが、マイコプラズマ抗体測定はあくまで抗体を検出する定性法であるため、陽性であっても病原体そのものの存在を意味しません。

迅速検査

咽頭拭い液を使用し、イムノクロマト法による迅速検査が可能ですが、現状では、感度が十分とはいえません。感度は60~70%です。

遺伝子検査

LAMP法による遺伝子検査は確定診断につながる正確な検査法ですが、結果が出るまでに、早くても、1週間程度かかります。

培養法

患者の咽頭拭い液や喀痰の、分離・培養を行い、肺炎マイコプラズマが分離同定された場合は診断確定となります。

合併症

発疹

合併症としては最も頻度が高く、過半数は風疹様、麻疹様の発疹です。
幼若児ほど多く見られます。

胸膜炎

胸水貯留が特徴で、発疹の次に多く、やはり幼若児に多く見られます。

中耳炎

一般細菌は陰性の、漿液性中耳炎として発症します。

中枢神経合併症

頻度は少ないのですが、髄膜炎、脳炎を合併することもあります。

その他

肝炎、膵炎、溶血性貧血、心筋炎、関節炎、ギランバレー症候群、スティーブンスジョンソン症候群など多彩なものがあります。

予防法

特異的予防法は無く、手洗い、うがい、マスク着用などの一般的な予防方法となります。
人混みを避け、患者となるべく接触せず、換気をしっかりします。
マイコプラズマは熱に弱く、洗剤など界面活性剤によっても失活します。
アルコールを含んだ消毒液で手の消毒も効果があります。
予防注射は未だありません。

治療薬

マクロライド系抗生物質

普通の病原細菌には体の周りに膜のような壁が存在し、ペニシリンなどの抗生物質は、この細菌の壁を破壊して、細菌を殺すことが出来るのですが、マイコプラズマには、そのような壁はありません。
従って、壁のないマイコプラズマにはペニシリンや、セフェム系の抗生物質は効果がありません。
マクロライド系抗菌剤のエリスロマイシン、クラリスロマイシンが有効でしたが、近年、マクロライド耐性マイコプラズマが出現し、治療が難しくなっています。
アジスロマイシンは比較的耐性菌が少ないとされ、治療の現場で使われることが多くなっています。
他には、テトラサイクリン系、ニューキノロン系の薬剤がよく用いられています。
野生におけるマイコプラズマの約15%は薬剤耐性で、マクロライドに対し耐性をもつため、マクロライド耐性を疑われた場合は、他剤が検討されます。

テトラサイクリン系抗生物質

テトラサイクリン系抗生剤は、成人の患者に使われることが多い薬剤です。
8歳未満の小児、および妊婦、授乳中の母親は、骨や骨牙形成への有害作用が、報告されているため、原則禁忌となっています。

自然治癒

マイコプラズマは頑固な咳が続きますが、基本的には自然治癒する病気ですので、抗生剤を使用しなくても、体力を充実させ、栄養補給し休養すれば、徐々に治ってゆきます。

保育園・幼稚園の登園・学校や職場に行けるタイミング

学校・保育園・幼稚園

学校保健安全法によれば登園・登校基準は『症状が回復した後』となっています。

職場

特に定めは有りません。 症状が回復したらということになります。