耳管開放症

耳管開放症とは

鼻と耳は、耳管という管でつながっており、耳の内外の圧力を調整しています。
正常な耳管は普段は閉まっていて、唾をゴクッと飲み込んだり、あくびをした時にだけ瞬間的に開き、すぐにまた閉じます。
しかし、何らかの原因で耳管が閉じきらず、開いている時間が長くなる、もしくは開きっぱなしになることがあります。
耳管がしっかり閉じなくなるこの病気を『耳管開放症』といいます。
症状としては、自分の声が大きく聞こえたり(自家強聴)、呼吸音が耳に響いたり(自己呼吸音聴取)、耳がふさがった感じ(耳閉感)がします。

疫学

耳管狭窄症の罹患率は、軽症者を含めると、日本人全体の約5%(約600万人)とされています。
主に30~40代の女性に見られる疾患ですが、70~80代にも多くの患者さんがいます。

原因

症状発現に先行して急激な体重減少を経験している方が、多く見られます。
これはダイエットやストレス、肝硬変、心・腎疾患、消化管の手術などによって急激に体重が減少すると、耳管周囲の脂肪組織も減少するため、常に耳管が開いている状態になってしまいます。
この他に、脱水、妊娠や女性ホルモン剤の使用、生まれつきの耳管構造の弱さ、急性中耳炎の後遺症、吹奏楽器の演奏後、加齢、低血圧、自律神経失調などで発症することもありますが、原因不明とされるケースも多くみられます。

症状

耳管開放症に典型的に見られる症状は、耳閉感、自声強聴、自己呼吸音聴取の3つです。
これら全てが存在すると、耳管開放症の可能性が高まります。

  1. 耳閉感
    耳閉感とは、耳がつまった感覚をいいいますが、中耳炎関連疾患でも耳閉は多く見られますので、特異的症状ではありません。

  2. 自声強聴
    自声強聴とは、耳管が開いているため、鼻側からの自分自身の声が、弱くならないまま直に耳側に伝わるため、鼓膜に大きく響く現象を指します。
    耳管開放症患者の9割以上に見られる症状で、出現頻度としては最も高率です。
    発声の際に、自分がどれくらいの大きさで喋っているのか分からなくなるので、常にこの状態が続くと、会話も苦痛になり、日常生活に大きな支障をきたし易く、うつ的状態にまで発展する方もいます。

  3. 自己呼吸音聴取
    自己呼吸音聴取とは、自分の呼吸の音が大きく聞こえることです。
    出現率は患者の7割以下ですが、耳管開放症以外の疾患ではほとんど見られない特異的な症状です。
    鼓膜が呼吸とともに動揺することで、耳の違和感、閉塞感を感じ、さらに自分の呼吸音が邪魔して聞きたい音が聞こえにくくなります。

  4. 体位による症状変化
    これら症状は体位により変化し、立位や坐位で出現していた症状は、臥位になると速やかに軽快・消失します。
    また、下を向くことで症状緩和することも特徴的です。
    布団に横になったり、深くおじぎをするように頭を下げたりすると、耳管の周りの血管が膨らんで血流が滞り、管が狭くなり、症状は軽快します。

  5. 鼻すすり
    鼻すすりをすると、中耳腔が陰圧となり鼓膜が凹み、耳管は閉鎖するため症状は即座に改善・消失します。
    このため、耳管開放症患者の中には、症状を軽減するために鼻すすりの癖が常習化している方も多く見られます。
    しかし、鼻すすり癖によって中耳の内圧が減少し、滲出性中耳炎や場合によっては真珠腫性中耳炎を発症させることもあるため注意が必要です。

診断

診断のポイントは 3主徴(耳閉感、自声強聴、自己呼吸音聴取)の有無が重要です。
その他、体位による症状の変化が認められ、他覚的検査所見が特徴的であれば耳管開放症と診断されます。

問診で大事なのは、横になった時に自声強聴が消失するかどうかの確認です。
耳管開放症の検査では、耳鏡や顕微鏡、あるいは耳用の内視鏡によって鼓膜を観察することが重要となります。
深呼吸や会話に一致して鼓膜の動揺が観察されます。(鼓膜の呼吸性動揺)
鼻深呼吸時の鼓膜の呼吸性変動を確認できれば耳管開放症の確定診断につながります。
聴診チューブ(オトスコープ)で患者の耳と医師の耳とをつなぎ、患者の話声を聴取することにより、耳管開放症を容易に診断できます。
ナ行、マ行の音を患者に発生してもらうと判りやすく検知できます。

鼓膜の呼吸性動揺より検出率は低いのですが他覚的にとらえられる検査法です。
テフィンパノメトリ―(外耳の圧力を人為的に変化させて、それに関連した鼓膜の動きを測定する検査)では正常な検査形状を示します。
耳管機能検査では、嚥下に一致して耳管開大持続時間の延長が認められます。

治療法

耳管開放症は、ストレスや、ダイエットなどの生活スタイルが原因になる事があるため、誘因となっている状況を改善することが大切です。
鼻すすりはしないようにしましょう。

  1. 薬物療法
    薬物療法には、花粉症や一般的アレルギー性鼻炎と同様の処方が有効です。
    抗ヒスタミン剤の内服や、点鼻ステロイド薬の噴霧などを用います。
    ATP製剤(アデノシン三リン酸を含む、血管拡張などの作用がある薬)や各種漢方薬(加味帰脾湯、補中益気湯等)が処方されることもあります。
    自律神経調節薬も有効な場合もあります。

  2. リラックス
    耳管開放症には自律神経の乱れも大きく関与していると考えられています。
    自律神経には、交感神経と副交感神経の2種類がありますが、不規則な生活やストレスなどは、2つの神経のバランスを崩してしまいます。
    ストレッチなどをして、身体をリラックスする機会をつくったり、気分転換に趣味に興じることも、自律神経改善効果があります。

  3. 耳管粘膜に炎症発生させる
    直接、ホウ酸やサリチル酸、グリセリンなどをカテーテル通気管を介して耳管内へ投与することで、耳管の粘膜に炎症を起こさせて、耳管を狭くする方法もあります。

  4. 鼓膜テープ
    鼓膜の振動を緩和させることを目的に、鼓膜にテープを張る治療も有効とされています。

  5. 耳管内シリコン留置
    難治例には、特殊な治療法として、耳管ピン挿入術や、鼓膜換気チューブ留置術があります。

  6. 咽頭口に薬液噴霧
    咽頭口からルゴール、プロタルゴールなどの薬品を噴霧注入します。

  7. 点鼻薬の使用
    プレマリンなどを鼻腔内に噴霧します。

  8. 生理食塩水点鼻療法
    症状のある側を下に仰向けになり、点鼻を行います。
    大部分は咽頭に流下しますがその一部が耳管に侵入し、耳管内腔を狭小、閉塞します。
    症状が消失するまで点鼻を行います。
    患者の約6割に有効とされ、高齢者での有効率が高いとされます。

  9. 手術的治療法
    耳管内腔充填を図る手術や、口蓋帆張筋に対する手術、人口耳管手術などがあります。

生活指導

  1. 鼻すすりの禁止
    不快症状を取り除く手段として無意識に鼻をすする方が多いのですが、滲出性中耳炎、癒着性中耳炎、真珠腫性中耳炎等の中耳病変の形成に直結するので止めなくてはなりません。

  2. 発症時のスカーフ療法
    症状のコントロール法としてスカーフ療法があります。
    これは、突然に症状が出現した時、首に巻いているスカーフ、男性であればネクタイを使い少し絞めると頭部からの静脈還流が阻害されて、耳管内腔を狭窄させるので症状を軽減できます。
    例えば、仕事の会話中に突然症状が出た時の対処法として有効です。

  3. 生活
    過度なダイエットを控えましょう。
    水分は多めに摂取してください。
    保温・保湿に努めることも、効果があります。