後鼻漏は、粘り気のある鼻汁が、ノドの奥に流れることをいいます。
健康な人でも鼻水が作られ、ノドに流れ下りていますが、性状はサラサラしており気になることはありません。
後鼻漏では、大量に発生した鼻水、粘りのある鼻水、あるいは膿のような鼻水がノドを下りるので、ノドの違和感や、咳や痰などの症状が現れます。
いくら鼻をかんでも鼻水は前方から出ず、絶えずノドに流れ込んでしまい、その鼻水を口から吐き出し続けるか、飲み込み続けるしかありません。その不快感はとても大きく、重症になると、食事や睡眠などの日常生活から対人関係にまで支障をきたすことがあります。
花粉症シーズンでは、血液のアレルギー検査で陽性反応を示した花粉症患者のうち後鼻漏症状を呈する割合は、70~80%になります。
鼻の中は広く粘膜で覆われており、常に粘膜が湿った状態に保たれるように、健常人では1日に1.2~1.5リットルほどの粘液すなわち鼻水が造られています。
鼻軟膜の表面には繊毛という目に見えない小さな毛が生えていて、粘膜の表面にある鼻水を、鼻からノドへ送ってゆきます。この鼻水でウイルスや細菌、ホコリなどを捉えて鼻からノドへ、さらには胃へと流すことで、体を守っています。
産生された鼻水のうち半分は鼻の加湿に使われ。残り半分は飲み込んでしまいます。
何らかの原因で、鼻水が大量に発生した場合には、ノドの奥に落ちて、後鼻漏になってしまいます。
後鼻漏の原因疾患は以下に示したように、多々有りますが、鼻水の出る病気のほとんどが後鼻漏の原因となり得ます。
後鼻漏の原因として最も多くみられます。
鼻の周囲に在る空洞(副鼻腔)に炎症が起こり、膿がたまり、さらには副鼻腔から膿があふれ出て流れてくるため、鼻水の量が増え、粘度が上昇します。
特にノドへ流れてくる鼻水が臭うようであれば、副鼻腔炎の関与が疑われます。
後鼻漏の原因として副鼻腔炎に次いで多くみられます。
鼻の粘膜にアレルギーの原因物質が侵入し、鼻水やくしゃみを起こす疾患で、鼻水が大量に流れ出します。副鼻腔炎に比べ、鼻水の粘度は低くなります。
後鼻漏の原因として、3番目に多い疾患です。
細菌やウイルス感染により気道に炎症が起こった状態です。
鼻咽頭炎とも呼ばれる疾患で、鼻の奥に在る上咽頭の炎症です。
上咽頭には鼻腔後方と中耳を連絡する耳管の開口部があるため、炎症が起こると、鼻汁、鼻づまり、咽頭痛や違和感の他に、耳の痛みや難聴、耳の閉塞感を伴い、中耳炎を合併することがあります。
鼻粘膜のうち、下鼻甲介には、中鼻甲介や上鼻甲介と異なり、腺組織が多く、鼻中隔湾曲部の炎症や機械的刺激が加わると後鼻漏の原因になります。
アレルギー性の副鼻腔炎で、アレルギー性変化の際に増加する白血球の中の好酸球が多いほど、後鼻漏症状の改善が遅れるといわれています。
寒暖差などが原因で自律神経が乱れ鼻炎症状を示します。
女性や40歳以上の方に多く、主に自律神経のバランスが崩れることで発症すると考えられており、寒暖差の他に、疲れや寝不足、ストレス、タバコの煙、ニオイなどが原因で発症します。
年齢を重ねるとともに鼻粘膜の線毛運動が弱くなり、鼻水輸送機能が低下し、発症します。
鼻水がノドに下がることが原因で、様々な症状が出現します。
程度とその内容は人により違いがありますが、列挙していくと、咳込み、咳払い、痰のからみ、痰の吐き出し、口の中の粘つき、口の中の分泌液充満、口臭、味覚障害、のどの違和感、異物感、詰まり感、えへん虫、声のカスレ、胃の不快感・膨満感、食道炎、睡眠障害、イビキ、歯肉炎、慢性気管支炎、肺炎などの症状が見られることがあります。
上記症状のうち、後鼻漏に代表的な症状は、咳嗽・痰です。
風邪をひいていないのに、夜になると咳が出て、朝方に痰がノドに絡みます。
鼻水がノドに溜まると口から吐き出すか、飲み込むかになるため、不快感がとても大きいという特徴があります。
就寝時には、仰向けになると鼻水の流れ込む量が増えるので、いつも横を向いて気道を確保しながら眠っているものの、それでもノドが苦しくて、何度も目が覚めて毎晩熟睡できなくなることも有ります。
高齢者では、飲み込む能力の嚥下(えんげ)機能が低下しているため、痰のような鼻水がのどに引っかかりやすくなります。
鼻腔の後方に何かあるのだが、鼻をかんでも、痰を出そうとしても除去できないといった訴えは、後鼻漏の患者に多く見られます。
一方で、せきや声枯れのような症状が有るにもかかわらず、鼻水が前に出ないため、咳の原因が後鼻漏と気付かれない場合もあり、注意が必要です。
実際には何もないのに、鼻やノドに引っかかりを感じることを、『後鼻漏感』と呼びます。
鼻の奥にポリープ(鼻茸)があったり、胃酸でノドの粘膜が荒れていたりすると、後鼻漏感が現れやすくなります。
鼻汁、鼻閉の有無、鼻水の色、痰の有無、経過などを聞いてゆきます。
アレルギー性鼻炎や副鼻腔炎あるいは上咽頭炎の有無を確認します。
必要に応じて撮影し、副鼻腔の状態を把握します。
必要に応じて採血検査します。
□ 鼻をかんでも、なかなか出てこない
□ 鼻汁がノドに流れる
□ 痰がからむ(ノドがゴロゴロしている)
□ 咳込む
□ 咳払いが多い
□ たびたび痰を吐き出す
□ のどの違和感(つかえ・ヒリヒリ・えへん虫)
□ 上咽頭(ノドの一番上のあたり)の異物感・不快感・へばりつき感
□ 口の中がネバネバする
□ 口の中に分泌物があふれる(頻繁に唾を吐き出す)
□ 口臭がする
□ 声がかすれる
□ 味覚障害(食事が美味しくない・変な味がする)
□ 不眠・睡眠障害(特に仰向けで安眠できない)
□ 胃の不快感や膨満感
後鼻漏の患者さんで多い回答は、痰のからみ、咳ばらい、睡眠不足ですが、
この中で2項目以上当てはまる方は後鼻漏の疑いがあります。
鼻水を発生させている原因を治療することが重要です。
発症してすぐの後鼻漏は治りやすいのですが、発症から1年以上経過すると、治りにくく、慢性化することもあります。
薬物療法には、花粉症や一般的アレルギー性鼻炎と同様の処方が有効です。
抗ヒスタミン剤の内服や、点鼻ステロイド薬の噴霧などを用います。
副鼻腔炎を合併している場合は、抗生剤の内服、ネプライザーが有効です。
レーザー治療や舌下免疫療法が行われることもあります。
副鼻腔炎に対しては、マクロライド系抗生物質が、鼻・副鼻腔粘膜の線毛運動活性化作用があり有効です。
さらに、去痰剤を継続併用服用することで治療効果が上がることが知られています。
後鼻漏の症状を緩和するために、漢方薬が処方されることもあります。
葛根湯(ツムラ1番)、荊芥連翹湯(ツムラ50番)、小半夏加茯苓湯(ツムラ21番)などが用いられます。
生理食塩水で鼻から副鼻腔にかけて洗浄を行います。
薬物治療で改善が無い場合、内視鏡下で鼻副鼻腔手術が必要になる場合があります。
しかし、手術を行っても後鼻漏の症状が完全には消失しない症例も存在し、特に鼻副鼻腔粘膜に好酸球が多い場合、手術成績が良くないこともあります。
マスクの着用も有効とされています。
カフェインは、体の水分の排出を促す作用が有るので、カフェイン入りの飲み物は、最小限にとどめて下さい。
上咽頭炎に鼻の奥の突き当りの上咽頭粘膜に擦過治療を行い、上咽頭の病的な粘膜を除去します。
その際には、1%塩化亜鉛水溶液を強く擦りつけます。