逆流性食道炎

逆流性食道炎とは

胃の中にある胃液が食道に逆流して食道の粘膜に炎症を起こす病気です。

食道の粘膜は、胃の粘膜と違い、胃酸の刺激から身を守る仕組みを持っていないので、胃酸に触れると炎症を起こしてしまいます。通常は、下部食道括約筋が胃液の逆流を防いでいるのですが、加齢などにより、この筋肉が緩んだり、胃や食道の運動機能が低下している場合は、食道が胃酸にさらされる時間が長くなり、炎症が起きやすいと考えられます。

食道病変部は、粘膜がただれるだけでなく、潰瘍を造ってしまったり、さらにそこから出血することも有ります。胃の内容物が食道内に逆流して胸やけの症状を訴える病気を、総じて、胃食道逆流症GERDと呼びますが、2つのタイプが有り、食道粘膜にびらんや潰瘍などの異常な病変が見られるタイプを逆流性食道炎と呼び、一方、胸やけ症状が有るにもかかわらず、食道粘膜に病変が見られないタイプを非びらん性食道逆流症といいます。

症状

代表的症状が胸やけと呑酸(ドンサン)です。胸やけとは胸骨の後ろからみぞおちにかけて、焼けるような感じと、鈍い痛みを感じる症状です。呑酸は胃の内容物が、胃から喉元まで上がってきて、再び下がることで、口やのどに酸っぱいあるいは苦い感じが込み上げてくる症状を表します。そしてその症状は食後や、前屈位で増強することが多いという特徴が有ります。それ以外にも、胃痛、胃の不快感、嘔気、胸痛さらには咽頭痛や咳など消化管らしくない症状も発生します。

原因

食道裂孔ヘルニア

体の中では心臓や肺、食道の入った胸腔と、胃や腸、肝臓の入った腹腔を横隔膜という筋肉の幕が隔てています。この横隔膜には、食道の通る穴、食道裂孔が開いていますが、本来、横隔膜の下に在るべき胃の一部が食道側に飛び出してしまう状態を食道裂孔ヘルニアと呼びます。加齢や、肥満、生活習慣などが原因でヘルニアが起こりやすくなります。食道裂孔ヘルニアが有ることで、胃から食道への逆流を防ぐ仕組みがうまく働かなくなり、胃酸が食道に上がってきやすくなり、逆流性食道炎の原因となります。

腹圧

腹圧は肥満や便秘、妊娠、喫煙、腹水、気管支喘息による慢性的な咳症状などで、上昇します。腹圧が上がることにより、胃が押し上げられ食道裂孔ヘルニアを形成しやすく、同時に、胃液も逆流し易くなります。若い人の逆流性食道炎の原因は便秘が多いとされます。

常習性便秘の人の約10%に逆流性食道炎が見られます。

噴門部の筋力減少

食道裂孔を絞めている筋肉の力が弱まると、胃液が逆流し易くなります。筋力の弱る原因としては、暴飲暴食、脂肪の多い食事、不規則な食事時間が考えられています。

悪化させる食物

胃食道逆流を悪化させる食物としては、高脂肪食をはじめ、甘いもの、チョコレート、アルコール、コーヒー、炭酸飲料、柑橘類、香辛料、玉ネギ等が挙げられ、また、餅やあんこ、まんじゅうなどの日本独特の食物も増悪因子として重要です。

予防

日常生活の工夫

高脂肪食を控えましょう。脂っこい食事をすると、括約筋を緩めるコレシストキニンというホルモンが分泌されます。暴飲暴食をすると食道の括約筋の一時的な緩みが生じやすくなりますので、適度な量の食生活をしてください。食事療法として、上記の逆流症を増悪させる食物類を控えることが有効です。また、食後直ぐに横になる習慣を止めましょう。寝た姿勢だと重力が働かず逆流し易くなります。寝るときの工夫として、少し上体を高くして寝ると、胃液が食道に上って行きづらくなり逆流が防げます。お腹を圧迫する姿勢、例えば草むしりや床掃除のような前かがみ姿勢は長時間続けないようにしましょう。腹部をベルトやガードルで締め付けすぎるのは良くありません。

肥満は内臓に脂肪が蓄積し、逆流の原因になりますから、減量を心掛けることは逆流性食道炎の予防につながります。

ピロリ菌との関係

胃がんや胃炎などを招く可能性のあるピロリ菌には胃酸を抑制する働きが有り、感染していない胃は胃酸の分泌が活発で、食道へ逆流する確率が高まりやすくなります。よって、ピロリ菌のいない若い人や、ピロリ菌を除菌した人も逆流性食道炎にかかり易いといえます。

検査

胃内視鏡検査

食道粘膜の炎症の有無と、びらん、潰瘍、出血の有無などを観察します。

胃酸の食道への漏れの原因となる、食道裂孔ヘルニアの有無も確認できます。

胃酸分布測定(24時間pHモニタリング検査)

細い管を鼻から胃に通して、24時間胃の中と食道の中のpH測定を行います。

診断

症状重視

症状が大変重要で、胃内視鏡所見が最も参考になります。粘膜病変が無くても悪性が否定でき、症状が合致すれば診断できます。心電図で狭心症や、心筋梗塞などの心疾患を除外することも大事です。

PPI投与

胃酸を抑える薬であるプロトンポンプ阻害剤(PPI)を投与して胸やけなどの症状が改善するかを観ることにより、診断と治療につながります。

治療法

食事療法

胃食道逆流を悪化させる食物としては高脂肪食、チョコレート、アルコール、コーヒー、炭酸水、柑橘系ジュース、香辛料、玉ネギなどが挙げられます。また、餅、あんこ、まんじゅうの類も増悪因子と考えられていますのでそれらを避けましょう。

生活習慣

喫煙は下部食道括約筋圧を低下させますのでやめましょう。

薬物療法

胃酸分泌を抑制する目的で、プロトンポンプ阻害剤(PPI)やH2ブロッカーが用いられます。食道の運動促進を目的に、消化管運動機能改善剤が使用されることも有ります。

手術療法の選択

PPI製剤でコントロール不能な場合、服用の中止で再燃・再発を繰り返す場合、食道狭窄、短食道などの合併症を認める症例などは、手術療法が選択されます。

外科的手術療法

食道裂孔ヘルニアで胸の方に胃が上がっている場合、胃を腹腔内に戻し、広くなってしまった食道裂孔を縫縮し、胃が胸側に上がらないようにします。

バレット食道

食道粘膜は皮膚と同じ扁平上皮からできていますが、逆流性食道炎などが有ると、下部食道の粘膜が胃と同じ円柱上皮に置き換わることが有り、バレット食道と呼ばれます。

バレット食道の粘膜は食道腺癌を発生するリスクが高いことが知られています。

バレット食道のがん発生率は健常者に比べ、10倍以上の高率であるとされます。

食道は他の消化管に比べ、リンパ管が特に発達しているため、食道がんは比較的早い時期からリンパ節に転移を起こします。癌の深達度が粘膜下層まで進むと半数近くの人にリンパ節転移が見られます。一方胃がんや大腸がんは壁深達度が粘膜下層までであれば、リンパ節転移は少なく、早期がんと呼ばれます。よって、胃がん大腸がんに比べ、バレット食道がんの予後は、あまり良くありません。消化器がんの中ではすい臓がんと並び最も治療の難しい疾患とされます。

バレット食道が内視鏡で見つかった場合は食道がんの危険因子ですから定期的な観察が必要となってきます。バレット食道の成因は後天的なものとみられており、食道への胃酸の逆流により食道粘膜が炎症を繰り返し、細胞が変性するためと考えられています。日本での食生活の欧米化に伴い、現在増加しています。この、食道下部腺癌の発生頻度は年間10万人に5人程度、胃がんの発生頻度は10万人に対し、140人位です。

ピロリ菌の除菌と発癌

ピロリ菌の除菌により胃がんの発生リスクは低下するが、食道がんの発生リスクが逆に上昇することが話題になっています。ピロリ菌を除菌すると、ピロリ菌が引き起こす萎縮性胃炎は正常に戻り、低下していた胃酸の分泌量が増加します。食生活の欧米化と併せ、過剰分泌された胃酸で逆流性食道炎にかかり易くなります。慢性的に炎症が続いている場所では発がんのリスクが上昇します。これは、ピロリ菌による胃炎から胃がんが生じやすいのと同じ理屈です。

このようにして慢性的食道の炎症からできる食道腺癌の数は、胃がんの30~50分の1位ですので、ピロリ菌保菌者であれば、ピロリ菌を積極的に除菌する方向で治療するのが現在の潮流です。

しかし除菌後の食道がん発生を考え、食道の経過観察をしっかりしなけらばならないという課題は残されます。