睡眠中に無呼吸を繰り返す病態の総称のことです。
Sleep Apnea Syndromeの頭文字をとって「SAS」とも言われています。
医学的には、10秒以上の気道の流れが停止した状態を無呼吸とし、無呼吸が1晩(7時間の睡眠中)に30回以上、もしくは1時間当たり、5回以上あれば、睡眠時無呼吸とされます。
日本人の2~4%、約240万人がSASに罹患しているといわれており、高血圧や糖尿病などの生活習慣病を患っている方では、さらに高い率でSASが合併していることがわかっています。
特に、薬が効きにくい高血圧(薬剤抵抗性高血圧)の方の約80%にSASが合併しており、薬の効きにくい原因はSASではないかともいわれています。
ちなみに、高血圧でのSASの合併は37%、糖尿病は23%、冠動脈疾患は31%くらいです。このように、実はSASは身近に潜む病気なので、寝ている間に生じる無呼吸が、起きている時の活動に様々な影響を及ぼすのです。
無呼吸が繰り返されることにより、身体中の酸素が減って、酸素の量を補おうと、心拍数が上がります。寝ている間に身体に大きな負担がかかっており、脳も身体も断続的に覚醒した状態になるので十分な休息をとるどころではなくなります。
本人が気づかないうちに日常生活に様々な影響を及ぼし、様々なリスクが生じている可能性が有ります。SASは呼吸が止まったり、いびきをかくことから局所の病気と思われがちですが、睡眠不足や低酸素により、眠気だけではなく、生活習慣病を新たに引き起こしたり、悪化につながると考えられています。
早期の適切な治療で生活習慣病のコントロールが可能です。
SAS患者は、日中の眠気・集中力の低下などから社会生活にも影響を及ぼしかねませんが、2003年の山陽新幹線の居眠り運転事故の運転手が重症のSASであったことが契機となり、SASと眠気・居眠りの関係が認識され始めました。
症状としては、寝ている間、目覚めたとき、日中に以下のような特徴が挙げられます。
原因としては、生活習慣、身体的特徴、男女差、年齢等が複雑に絡み合っています。
OSASは咽頭もしくは咽頭周囲の閉塞や狭窄により起こります。これらの原因は、肥満に伴う上気道軟部組織への脂肪沈着、扁桃肥大、巨舌症、鼻中隔湾曲症、アデノイド、小顎症などの形態的異常と、上気道筋の活動度の低下などによる機能的異常が有ります。上気道閉塞が、繰り返し発現し、結果として呼吸調節系の安定性が低下し、OSASが増悪すると考えられています。OSASによってガス交換障害が起こり、著しい低酸素血症が出現します。同時に高二酸化炭素血症も出現し、循環系へ悪影響を及ぼし、高血圧や糖尿病といった合併症の原因となります。
胸腔内が、強い陰圧にさらされ左心への負担が増します。
また、入眠→無呼吸→中途覚醒→呼吸再開→再睡眠を一晩の間に何回も繰り返すため、深い睡眠が得られず、OSAS患者は日中傾眠を訴え、さらに、断眠は精神・神経機能にも悪影響を与えると考えられています。
特に肥満者では、呼吸再開時に著名ないびきを伴うことがあり、いびきの常習者で日中の眠気が有る場合は、OSASを疑って検査を行う必要があります。
無呼吸・低呼吸による低酸素・高炭酸ガス血症により、不整脈(→突然死)、肺血管攣縮(→肺高血圧、右心不全)、体血管攣縮(→高血圧)、赤血球産生刺激(→多血症)がもたらされます。
また、中途覚醒により、精神障害・深睡眠の欠如、断眠(→日中睡眠、知的障害、性格変化、異常行動)、過動症(→睡眠の不安定化)が見られます。これらの機序から次のような合併症が発生してきます。
太りすぎないことが、首の周りの脂肪を抑制する効果的手段です。メタボリックシンドロームを防ぐためにも体重コントロールを心掛けましょう。
アルコールにより筋肉が弛緩するため、お酒を飲んだ日にいびきをかいてしまう人が多いのです。寝ている時は筋肉が緩んでいますのでアルコールが加わればいっそう無呼吸のリスクが高まります。寝酒の癖をやめると改善効果が得られます。
睡眠薬の多くは無呼吸を悪化もしくは助長させます。
本来の鼻呼吸がしにくく、口呼吸になっている人は原因となる鼻炎などの治療をしましょう。
仰向けより横向きで寝る方が、上気道の閉塞を軽減できます。
危険性として、成人SASでは、高血圧、脳卒中、心筋梗塞などを引き起こす危険性が3~4倍高まります。特に、AHI30以上の重症例では心血管系疾患発症の危険性が約5倍にもなります。一方、CPAP治療をすると健常人と同等まで死亡率を低下させる効果があります。
重症SASの患者さんの眠気による交通事故・労働災害が最近注目されています。治療により交通事故・労働災害を未然に防ぐことは大きな意味の有る事です。米国のデータではSAS患者は、交通事故発生率が健常者に比べ、約2~7倍高いとされます。
鼻に気流センサーを、手の指に動脈血酸素飽和度測定器を装着して、自宅で寝ていただき、眠っている間の呼吸状態と血液中の酸素濃度の状況を調べます。
簡易検査よりもさらに詳しく、睡眠と呼吸の質の状態を調べる検査です。終夜睡眠ポリグラフ(OSG)検査と呼ばれます。医療機関に1泊して検査をします。
一般的に、SASの重症度はAHI(Apnea Hypopnea Index)=無呼吸低呼吸指数で表すことが多く、これは10秒以上の無呼吸・低呼吸(呼吸が浅く弱くなる状態)が1時間当たりに発生する回数を意味します。
このAHIが5回以上認められ、日常の症状(いびき、日中の眠気、起床時頭痛など)があればSASと診断されます。
Continuous Positive Airway Prerrureの頭文字をとってCPAP療法といいます。経鼻的持続陽圧呼吸療法と呼ばれ、欧米や日本国内で最も普及している治療法です。睡眠時に常に気道に陽圧をかけることで、睡眠中の気道の閉塞を防止します。
実際の治療には、CPAP装置と専用のマスクを使用します。
AHIが20以上で日中眠気などを認める場合は標準的な治療法ですが、保険上、AHIが40回以上で適応になります。
CPAP装置からエアチューブを伝って、鼻に装着したマスクへ持続した空気が気道に送り込まれ、気道を開存させておくので、寝ている間の無呼吸を防ぎます。
スリープスプリントとも呼ばれる歯科装具(マウスピース)を装着し、下あごを上あごよりも前方に出すように固定させ、上気道を広く保ち、いびきや無呼吸の発生を防ぐ治療法です。
気道を塞ぐ部分を取り除く根治治療法です。小児の多くや成人の一部で、SASの原因がアデノイドや扁桃肥大などの場合は摘出手術が有効な場合が有ります。米国では狭い上気道を広げる目的で、上顎や下顎を広げる手術も行われています。