水痘・帯状疱疹ウイルスによって皮膚に発疹や痛みなどが出現する病気です。
50歳以上の人に多く発症します。
患者の約7割は50歳以上ですが、残り3割には20代~30代も含まれています。
男女ともに50代から患者数が急上昇し、女性は70代で、男性は80代でピークを示します。患者総数では女性の方が多い傾向です。
日本人は80歳までに約3人に1人が、85歳までに約半数が、帯状疱疹を経験すると推定されています。
帯状疱疹発症率は年々増加しており、予防の必要性が提唱されています。
帯状疱疹の発症は、通常生涯に一度しかありませんが、2回以上経験することもあり、その割合は4%未満です。
水ぼうそうと帯状疱疹の発症は、従来鏡像関係にあり、水痘の少ない夏に帯状疱疹が多く、水ぼうそうの多い冬には帯状疱疹が少ない傾向にあったのですが、最近は予防接種のおかげで水ぼうそう患者が少ないため、関係性は薄くなっています。
帯状疱疹の原因は、多くの人が子供の頃に感染する水ぼうそうの原因ウイルスである『水痘・帯状疱疹ウイルス』の活性化です。
水ぼうそうと同じウイルスが、形を変えて発症するのが帯状疱疹といえます。初めて感染した時は、水ぼうそうとして発症します。多くの人は子供の頃に感染し、かゆみを伴う発疹(水ぶくれ)と発熱を主な症状として、通常1週間ほどで治まります。
しかし、治った後もウイルスは体内の背骨に近い神経節(神経の細胞が集まった部分)に症状を出さない状態で潜伏し、体内に残ります。
普段、健康で免疫力が強い間はウイルスの活動は抑えられていますが、加齢や疲労、ストレス、悪性腫瘍に罹患、HIV感染などで抵抗力が弱まり、細胞性免疫が低下するとウイルスが再活性化し、活動を始め、神経を伝わって皮膚に到達し、帯状疱疹として発症します。
細胞性免疫が低下した易感染性患者では、より重症化の頻度も高くなります。
通常は生涯に一度しか発症しませんが、免疫が低下している場合には再発することもあります。通常は、帯状疱疹が生じても、別の重篤な病気が隠れているというわけではありません。
帯状疱疹の患者数は年々増加しています。最近の25年間で発症率は約2倍にもなっています。特に2014年から発症率が急激に上昇していますが、この年から乳幼児に対する水ぼうそうワクチンの定期接種が始まったことが原因と考えられています。水ぼうそうにかかる子供が激減し、周囲の大人がウイルスを体に取り込むことによるブースター効果(抗原との再接触による免疫増強)が得られにくくなったため、帯状疱疹が増えたと、解釈されています。
ウイルスに感染してから症状が現れるまでの期間を潜伏期間といいますが、水ぼうそうの場合は、水痘・帯状疱疹ウイルスに初めて感染して、通常2週間程度で発症します。ウイルスは水ぼうそうが治った後も症状をださない状態で背骨近くに潜んでいますが、加齢や疲労、ストレスなどによる免疫機能の低下をきっかけに、再び目を覚まし帯状疱疹が発症します。
よって、帯状疱疹の場合は、ウイルス初感染から発症するまでの期間は一定では、ありません。
一般に、数日~10日間ほど前駆痛といって、神経の炎症により神経痛のような痛みが先行して出現し、その後、その部位に大体一致して、赤い発疹が出現するのが特徴です。
皮膚と神経の両方でウイルスが活性化増殖して炎症が起こっているため、皮膚症状に加えて強い痛みを伴います。
前駆痛の感じ方は、人によって程度はさまざまでピリピリ、ビリビリする痛みや、刺すようなあるいは焼けつくような痛み、重苦しいズーンとした痛み、あるいは、かゆみや、モゾモゾとした違和感の場合もあります。
時に、夜も眠れない位の激痛となることもあります。
赤い発疹はその後、小さな水ぶくれ(疱疹と同じ意味)に変化していきます。
水ぶくれは最初、数ミリくらいの小さなものが数個みられるだけですが、次第に数を増して、新しいものと古いものが混在するようになり、分布は帯状になります。
水ぶくれの多くは、胸や背中、腹部など上半身に現れますが、、顔面や目の周りに見られることもあります。
病変は典型的には片側性であり、体の正中線を超えることはありません。皮疹は一定の末梢神経の走る方向に沿って出現します。
このように水ぶくれが帯状に集まって生じることから「帯状疱疹」と呼ばれます。
水ぶくれは、血液を含んだ黒ずんだ色になることや、膿がたまることもあります。
水ぶくれや膿は1週間ほどで破れ、その後かさぶたとなり、皮膚症状は3週間前後で治りますが、色素沈着や、傷跡が残る場合もあります。
発生する場所は胸、腹、背中など肋間神経領域が最も多く、次いで顔面の三叉神経領域に多くみられます。
頭部~顔面18%、頚部~上肢14%、上肢~胸背部31%、腹背部20%、腰臀部~下肢17%
特に目の上から額の出現率は年齢と共に高くなります。
細菌による二次感染を予防するには、皮膚を清潔に保ち、水疱をひっかかないようにすることが大切です。
皮膚症状が現れる前後には、発熱したり、リンパ節が腫れたりすることもあります。
水疱には水痘・帯状疱疹ウイルスが入っていて、感染力があるため、未感染の人が水疱の液に接触すると水痘にかかることがあります。
免疫系が正常に機能していない人の場合は、主な病変が皮膚の一定神経に沿った領域以外にも多くの水疱が出現したり、水疱が2週間以上持続することもあります。
水疱を掻いて細菌感染が生じることがありますが、これは皮膚に傷跡が残るリスクを高めます。
病変部位は通常、知覚過敏を伴い痛みは重度となることがあります。
通常、小児の帯状疱疹は成人ほど悪化しません。
眼の周りに現れたものは「眼部帯状疱疹」と呼ばれ発症初期から結膜炎や角膜炎などが起こることもあり、注意が必要です。
顔面神経麻痺、難聴、めまいを伴うことがあり、ラムゼイ・ハント症候群と呼ばれます。
肩から首筋に激しい痛みが生じたり、腕が挙げられないといった運動麻痺の症状が出ることもあります。
帯状疱疹が片側の神経の流れに沿って現れることから、細長い形状が多くなります。
自分で皮膚の変化が見ずらいので注意が必要です。
便秘になったり、尿が出にくくなったりという症状を伴うこともあります。
帯状疱疹は、通常、体の左右どちらかに発症しますが、ごく稀に両側に発症する場合があります。例えば、帯状の皮膚病変のほかに、少し離れて、あるいは全身に水ぶくれなどの発疹がみられることがあります。
これを汎発性帯状疱疹といいます。
免疫不全状態にある高齢者や免疫抑制剤を使用している場合、悪性腫瘍を持つ方などにおこります。
皮膚のウイルスが血管内皮細胞内で増殖し、ウイルス血症を起こしたものです。
帯状疱疹の発疹が治った後でも、ウイルスの攻撃によって神経に傷跡が残ってしまい、痛みだけが長い間残ることがあります。
皮膚発疹終了後、3ヶ月以上続く痛みのことを「帯状疱疹後神経痛」(Postherpetic neuralgia:PHN)といいます。
帯状疱疹を発症した人のおよそ10%に、PHNの発症がみられ、50歳以上の患者にしぼると、およそ20%で、PHNを発症します。
帯状疱疹の合併症の中で、最も頻度の高い後遺症です。
痛みは、絶え間なく続く場合もあれば、間が空くこともあります。
ひどくなると、痛みで他のことが手につかなくなる事さえあるので、できるだけ早く治療して、痛みが記憶として残らないようにすることが大切です。
痛みの程度としては、「焼けるような」「締め付けるような」持続性の痛み、「ズキンズキンとする」疼くような痛みという表現がよく聞かれます。
軽い接触だけでも痛む、PHNに特徴的な皮膚感覚異常とされる「アロディニア」と呼ばれる状況をきたす場合もあります。
本来は痛みの刺激とはならないような軽い接触でも、痛みを感じるので、皮膚に存在する痛みを感じる部分の刺激感受性が増しているための症状です。
手が顔に触れると痛くて洗顔ができない、シャツが擦れて痛く、衣服の着脱がつらいなど日常生活に支障をきたします。これら種々の痛みにより、睡眠や日常生活に支障を来たす方も多く見られます。
50歳以上の帯状疱疹患者はPHNに移行し易く加齢とともに移行率は高まります。
帯状疱疹を発症した時に皮膚の症状が重かったり、痛みが酷かったり、皮膚症状が現れる前から強い痛みがみられたりする場合や、免疫機能が低下する疾患を持っている人はPHNになりやすいとされています。このような場合感覚異常の程度は強く、広範囲に及び、アロディニアによる痛みも激しくなる傾向が見られます。
額、眼の周囲、特に鼻の先端にびらんがある場合はよく見られます。
帯状疱疹発症初期に、鼻の周囲に皮膚症状が見られた場合には、高頻度で目の症状を伴う合併症が生じます。
鼻の先端の小水疱は、Hutchinson徴候と呼ばれ、鼻毛様体神経分枝への病変波及を示し、重度の眼疾患を来たすリスクがより高いことを示唆します。
角膜炎や結膜炎、ぶどう膜炎などがみられることがあり、視力低下や、失明に至ることもあります。
耳の帯状疱疹を発症すると、顔面神経麻痺や、耳への神経の影響から、めまい(回転性めまい)、耳鳴、難聴を生じることがあります。
外耳道には痛みがある他、水疱が見られます。
時に、舌の前側3分の2で味覚が失われることもあります。
症状の出現する順序は一定ではありません。
顔面神経麻痺から始まる例、耳痛や耳介発赤、水疱形成が先行する例、難聴、めまいが先行する例など、発症形式は様々となります。
顔面神経麻痺は発症後も進行を続け、7~10日で完成します。
稀な疾患ではありますが、口腔内の片側に境界明瞭な分布の病変を生じます。口腔内に前駆症状は出ません。
溶連菌感染症、ブドウ球菌蜂窩織炎などを発症することがあります。
頭痛や髄膜刺激症状を伴い発症します。
脳血管炎、脳梗塞、一過性脳虚血発作(TIA)、昏迷やケイレンの発症が報告されています。
筋力低下、横隔神経麻痺、神経因性膀胱を起こすことがあります。
麻痺、知覚障害、括約筋障害を起こすことがあります。
帯状疱疹は、自分の体内に潜伏してる水痘・帯状疱疹ウイルスが再び活性化することで発症するので、水ぼうそうに罹患したことのある大人が、新たにウイルスに感染したり、帯状疱疹そのものがうつったりすることは有りません。
ただし、水ぼうそうにかかったことの無い人や、乳幼児、予防接種をしていない子供、免疫力が低下する病気にかかっている人などは、患者の水ぶくれ液との接触で感染する可能性があるので、なるべく接触しないように気をつけた方が良いでしょう。
唾液から飛沫感染することもあります。
水ぼうそうになったことの無い人に、帯状疱疹としてうつることは有りません。
単純ヘルペスウイルス(HSV)もほぼ同様の病変を引き起こしますが、帯状疱疹の病変は、神経の分布に沿い、皮膚分節に沿った発生をしますが、HSVは神経や分節に沿った分布はしません。
また、HSVは再発しやすいという特徴があります。
帯状疱疹を発症したら、合併症や後遺症を引き起こさないためにも、帯状疱疹の疑いがある場合は速やかな受診が必要です。
帯状疱疹の治療は、原因となっているウイルスを抑える抗ウイルス薬と、痛みに対する痛み止めが中心となります。
帯状疱疹を引き起こすウイルスに直接作用する抗ウイルス薬は、症状がでてからなるべく早く治療を始めることが必要です。また、痛みに対しても治療が必要なので、速やかに、内科、皮膚科、ペインクリニックなどの医療機関を受診し治療をすることが重要です。
治療法は、抗ウイルス薬が中心となります。薬を使ってウイルスの増殖を抑えることで、急性期の皮膚症状や痛みを緩和し、合併症や後遺症を軽減します。
できるだけ早期(皮膚病変発現後72時間以内)の治療開始が重要です。
帯状疱疹が疑われた場合、直ちに、できれば水疱が現れる前に投与を開始します。水疱が出てから3日以上経過して投与した場合、薬が効かない可能性が高くなります。
水痘・帯状疱疹ウイルスが活性化して活発に増えている段階でウイルスのDNAの合成をさまたげることで、ウイルスが増えるのを抑える働きがあります。
症状が軽い場合や中程度の場合には、内服薬の抗ウイルス薬で治療します。
症状が重く、水痘のように全身に水疱が出現したり、高熱を伴ったりする場合や、免疫機能が低下している場合には、入院した上で抗ウイルス薬の点滴による治療が必要となることがあります。
痛みに対しては、鎮痛剤で治療が行われます。帯状疱疹の痛みは、発疹が出るよりも先に現れることが多く、このような皮膚の痛みに対しては、鎮痛剤が有効です。
しかし、鎮痛剤の治療はあくまでも痛みに対する対症療法であり、帯状疱疹そのものを抑えるためには抗ウイルス薬による治療が必要となります。夜も眠れないほどの強い痛みが続く場合には、ペインクリニックなどで、神経ブロックと呼ばれる、神経近くに局所麻酔薬を注入して、神経伝達を阻止する麻酔治療が行われることもあります。
帯状疱疹に対して塗り薬が使われることがあります。
抗ウイルス薬の塗り薬(軟膏など)は、軽症の場合や既にウイルスの活性化が抑えられている場合に使われます。
PHNは皮膚の発疹が無くなった後も残る神経性の痛みです。
帯状疱疹の発疹と共に現れる皮膚の炎症による痛みとは、痛みのメカニズムが異なり、神経に関する痛みとしての治療がおこなわれます。
皮膚の発疹が無くなった後に強い痛みが残る場合や、痛みが長く続いた場合にはPHNが疑われます。刺すような、焼けるような痛みが3ヶ月以上続く場合に診断されることが多いのですが、皮膚の発疹が無くなった後も痛みが続く場合、PHNと考えて治療が行われることもあります。
内服薬としては、神経障害性疼痛緩和薬が選択されることがありますが、有効でない場合は、オピオイド鎮痛薬という麻薬性鎮痛薬が使用されることもあります。その他うつ病治療薬も選択肢として入ってきます。
内服治療がメインとなりますが、それに加えて神経ブロック注射や、レーザー治療が行われることもあります。
帯状疱疹の発症には、免疫機能の低下が関係していることが知られています。
加齢や疲労、ストレスなどによって免疫機能が低下すると、潜伏していた水痘・帯状疱疹ウイルスが再び活性化しやすくなります。
基本的には、免疫を向上させるために、規則正しい生活習慣や、適度な運動習慣を身につけることとなりますが、50歳を過ぎた人は、予防接種という選択肢もあります。帯状発疹を発症してしまった場合、抗ウイルス薬などによる治療を行なっても、帯状疱疹後神経痛(PHN)などの後遺症になる場合もあるため、予防を心掛けておくことが望ましいでしょう。
日本人成人の90%以上は、帯状疱疹の原因となるウイルスが体内に潜伏することによってできる「抗体」を有しています。これは多くの人が子供の時に感染する水ぼうそうが、水痘・帯状疱疹ウイルスの感染によるもので、感染したウイルスは水ぼうそうが治った後も、体内に潜み続けています。こうして獲得した免疫は、年齢とともに弱まり、帯状疱疹を発症することが多くなる傾向があります。
また、一度帯状疱疹になった人でも、体の免疫機能が低下すると、再び発症する可能性があります。そのため、ワクチンを接種して、免疫の強化を図ろうというのが帯状疱疹の予防注射です。
帯状疱疹ワクチンには、2種類あります。
弱毒化生ウイルスワクチンです。
接種対象者は50歳以上の方です。
病原体となるウイルスの毒性を弱めて製造されており、皮下注射1回を受けます。
帯状疱疹の発症予防効果は50歳以上の人で、50%程度とされ、PHNの発症は3分の1に抑えるとされています。
ただし、易感染性患者に対しては禁忌で、接種すべきではありません。
このワクチンは生ワクチンといい、弱毒化されてはいるものの、病原性をわずかに残すため、先天性および後天性免疫不全状態の者、ステロイドなどの薬剤治療を受けており、明らかに免疫抑制状態である者等は接種不適当です。
組替えワクチンです。
接種対象者は50歳以上の者、さらに、帯状疱疹に罹患するリスクが高いと考えられる18歳以上の者(疾患または治療により免疫不全である者、免疫機能が低下した者、又は免疫機能が低下する可能性がある者、その他医師が必要と認めた者)です。
水痘・帯状疱疹ウイルスのたんぱくの一部と、アジュバント(免疫増強剤)を混ぜて作った注射です。標準接種では筋肉注射2回を、2ヶ月間隔で射ちます。
2ヶ月を超えた場合であっても、6ヶ月後までは2回目の接種が可能です。帯状疱疹に罹患するリスクが高いと考えられる18歳以上の者は、1~2ヶ月の間隔で2回目の接種を行います。
水痘や帯状疱疹にかかった覚えがあるかどうかや、旧型の生ワクチンをうけたかどうかに関係なく、50歳以上の健康な人に推奨されています。
接種の効果については、臨床試験で、帯状疱疹の発症予防効果は50歳以上で、97.2%、70歳以上で89.8%と高い有効性を認めました。
PHNの発症予防についても50歳以上で100%、70歳以上で85.5%の減少率を認めました。予防効果は少なくとも、10年間は持続することが確認されています。
新型コロナワクチンやインフルエンザワクチンを接種する場合は、帯状疱疹ワクチンのどちらかのワクチンを先に接種しても、14日間の間隔を開ければOKです。
自治体によっては、帯状疱疹ワクチン接種の費用助成があるので、居住地の自治体に確認してみると良いでしょう。