舌下免疫療法(SLIT : Sublingular Immmuno Therapy)とは、毎日、舌の下にスギやダニなどのアレルギーの原因となる抗原を微量含有している錠剤を置き、アレルギー物質を直接体内に取り込むことで体の過剰な反応を抑える方法です。
アレルギー性鼻炎や気管支喘息に対して一般的に行われている治療は、内服薬や外用薬(点鼻薬、吸入薬、テープ剤等)による対症療法であって、その時の症状を抑えるために行われており、アレルギー体質を根本的に改善してゆく治療法ではありません。
舌下免疫療法による減感作療法は、アレルギー体質そのものを治療してゆく、体質改善療法として確立されています。
従来は、注射(皮下免疫療法)による減感作療法が行われていましたが、2014年より舌下免疫療法が開始されるようになり、内服薬を用いて、自宅で毎日手軽に治療が行なえるようになりました。
アレルギーの原因物質(アレルゲン)を少量から徐々に増やして投与することで体をアレルゲンに慣らし、根本的な体質改善を目指す治療法です。
ヒロクリニックの診療担当医は、日本アレルギー学会主催の『舌下免疫療法講習会』の実際の講習を受講終了しております。(パシフィコ横浜にて)
現在、保険上は下記の2つのアレルゲンが原因となるアレルギー性鼻炎が対象疾患となっています。
① スギ花粉症(季節性アレルギー)
② ダニ抗原によるアレルギー性鼻炎(通年性アレルギー)
実際には、保険適応疾患名として気管支喘息の名称は有りませんが、ダニアレルゲン陽性の気管支喘息患者には、舌下免疫療法の治療により、鼻炎と同時に喘息症状の軽症化が報告されています。
スギ花粉有病率は、0~4歳で3.8%、5~9歳で30.1%、10~19歳で49.5%
通年性アレルギー性鼻炎(主にダニ陽性者)有病率は、0~4歳で5.1%、
5~9歳で20.9%、10~19歳で38.5%となっています。
1日1回、錠剤を舌の下に1分間保持した後、飲み込むことにより体質を改善させる治療法です。
その後、5分間はうがいや、飲食を控えます。
治療前2時間び、治療後2時間は、激しい運動、アルコール摂取、入浴は避けてください。
舌下の粘膜から吸収され、免疫系がこれは危険でないと認識するようになります。
継続することで、アレルギー反応が弱まり、鼻水やくしゃみ目のかゆみが減ります。
アレルギー症状を引き起こす、ヒスタミンを放出する脂肪細胞が、口の中の粘膜には非常に少ないため、アレルギー症状を引き起こさずに、免疫に直接刺激を与えることが出るのが理由です。
アレルギー抗体の採血検査等でスギやダニにアレルゲン陽性診断がついた患者さんが保険治療の適応となります。
開始1週間は少量から内服し、1週間後に増量を行います。
初回投与は医療機関内で、内服を行い、30分の体調観察を行います。
治療は、まず舌下錠を舌下(舌の裏)に置いて1分間保持し、その後飲み込みます。
錠剤は口腔崩壊錠のため、舌下ですぐに解けます。
服用後は5分間うがいや食事を控えます。
治療前後の2時間は、激しい運動、アルコール摂取、入浴は避けて下さい。
問題が無ければ、2日目から、自宅で毎日、舌下投与を継続します。
スギ舌下免疫療法(非飛散期)では、シダキュア2000JAU1錠を、1週間舌下投与後に、シダキュア5000JAU1錠に変更し、舌下投与を継続してゆきます。
治療維持は3~5年間が推奨されます。
ダニ舌下免疫療法では、ミテイキュア3300JAU1錠を、1週間舌下投与後にミテイキュア10000JAU1錠に変更し、舌下投与を継続してゆきます。
治療維持は3~5年間が推奨されます。
長期間(3カ月以上)服薬を休止する場合、再開時は少量より再開します。
投与開始初期は、できるだけ日中家族のいる場所で服用するようにします。
喘息発作時、風邪(発熱)、口の中に傷や炎症が有る時は内服を中止しましょう。
アレルギー改善効果は治療開始後比較的早く得られ、年単位で効果が高まっていきます。
ダニの舌下免疫療法の報告では、3年間治療をおこない有効だった場合、さらに6年間、有効性が持続し、3+9で計9年間の効果が持続したというエビデンスが得られています。
また、4~5年間治療をおこない有効だった場合、さらに7年間有効性が持続し、計11~12年間の効果が得られたということです。
数年経過後、効果が切れた時には、治療の再開が可能で、その場合、効果が早く現れやすいとされます。
スギ花粉症(季節性アレルギー)の治療薬シダキュアは、5月の連休明け位から、10月の間に治療開始すると良いとされます。一般的には治療開始は6月~12月となります。
ダニ抗原によるアレルギー性鼻炎(通年性アレルギー)の治療薬ミテイキュアの治療開始時期は、特に決まったものはありません。
花粉症シーズン(1月~4月)は身体の中のアレルギーの過敏性が亢進しているため、その時期を避けて治療を開始する事が推奨されています。
スギ花粉症とダニアレルギー性鼻炎、両者の治療を受ける場合は、開始時期は、1か月以上あけるようにします。これは副作用の発現時期が開始1ヶ月以内に多いため重複を避けるためです。
スギ花粉症の場合は、初めてのスギ花粉飛散シーズンから効果が見られます。
ダニアレルギー性鼻炎の場合は、治療を始めて数ヶ月後から効果が期待されます。
年単位で継続することで、最大の効果が得られると考えられています。
アレルギー反応を根本的に改善し、生活の質を向上させてくれます。
自宅で手軽に続けられる点が魅力です。
治療期間が長期(3~5年)にわたり、効果の出方には個人差があります。
副作用の可能性があることは留意が必要です。
約70~80%の患者で症状の軽減が見られ、投薬量の減量が、期待できます。
長期的には、治療終了後も効果が数年間持続することがあります。
しかし、20%前後の患者に効果が無かったとする報告があります。
アレルギー性鼻炎に対する鼻症状(くしゃみ、鼻水、鼻づまり)に対しての有効率は「著名に有効:20%」「ある程度有効:50~60%」と報告されています。(3年間の治療後)
スギの舌下免疫療法は、ヒノキの花粉症にもある程度効果が認められます。
シダキュアはスギ花粉症の治療薬として開発されましたが、スギとヒノキの花粉には交差抗原性といって、共通するアレルゲン成分があるため、スギ花粉に対する舌下免疫療法がヒノキ花粉症にも効果を示します。
効果発現時期については、スギ花粉症の場合は、初めてのスギ花粉飛散シーズンから効果が見られます。
ダニアレルギー性鼻炎の場合は、治療を始めて数ヶ月後から効果が期待されます。
年単位で治療継続することで、最大の効果が得られると考えられています。
主な副作用としては、口腔内症状が発現し易いことが知られ、口の中(舌・口唇)の腫れ・かゆみ・不快感・咽頭刺激感があります。
その他、のどや耳の違和不快感、頭痛、くしゃみ、鼻水などのアレルギー性鼻炎症状が見られることもあります。
ごく稀な副作用として、アナフィラキシー症状があります。このため、初回の内服は医療機関内での経過観察が必要となります。
アナフィラキシー症状としては、蕁麻疹、腹痛、おう吐、息苦しさなどの呼吸器症状があります。
アナフィラキシーショックは非常に稀で、100万人に1人位とされています。
副作用による死亡例は、世界的に報告されていませんが、なるべく多くの医療機関が稼働している午前中の服用をお勧めします。
副作用の多くは、治療開始初期の1ヶ月以内に出現し、特に、治療開始直後に多くみられます。通常は1ヶ月程度内服すると落ち着いてきます。抗ヒスタミン薬を一緒に内服すると起こりにくくなります。
口腔内の腫れ、かゆみ、刺激感などが起こる場合、多くは軽度で、時間的に数分から数十分以内におさまります。
喘息発作を誘発する可能性があるため、喘息治療中のかたは、事前に医師に相談が必要です。
投与ができない方は次のとおりです。
ダニアレルゲン陽性の喘息患者に対し、ダニ舌下免疫療法を3~5年間行うことで、喘息が軽症化(吸入ステロイドを減量できるなど減薬効果、増悪を抑制、生活の質QOLの改善)し、さらに新たなアレルゲン感作を抑制することが判っています。
特に軽症から中等省のアレルギー性喘息の方について有効性が示され、気道過敏性や慢性的な炎症の軽減が報告されています。
さらに舌下免疫療法は一定期間治療後も、その効果が長期に渡り持続することが特徴です。喘息予防・管理ガイドラインでは軽症~重症を問わず、肺機能が安定しているダニアレルギー性鼻炎合併例では追加治療として舌下免疫療法が推奨されています。
ダニアレルギー性鼻炎および喘息を罹患している小児に対して、ダニ舌下免疫療法を行なうと、5年後の治療終了時、及び10年後に喘息を罹患していた患者の割合が大幅に減少したことが報告されています。
ダニアレルゲン陽性の小児喘息は、成人喘息への持ち越し・再発症が多く、小児期でダニ舌下免疫療法を行う意義は大きいと考えられます。
既に1つでも特異的IgE陽性アレルギ―を持っていると、15年間でほぼ100%新たなアレルゲン感作を起こすことが知られています。
これに対し、舌下免疫療法を5年間行うと、新たなアレルゲン感作を起こす割合が15年間で10%程度まで抑制されたと、報告されています。
ダニ舌下免疫療法は一定期間治療を行うことで新たなアレルゲン感作を生涯にわたり予防する効果があると考えられます。
喘息患者の感作アレルゲンの推移をみた研究によれば「アスペルギルス(カビ)」と「シラカバ花粉」に対し新たに感作されるケースが多いことが分かっています。
「アスペルギルス」に対するアレルゲン感作は喘息重症化のリスクとなることが分かっていますので、舌下免疫療法で新たなアレルゲン感作を予防することは、将来の喘息重症化のリスクを軽減することになります。
食物アレルギーの症状として、アレルギー食物を口にすると、口の中に違和不快感を感じることがあります。
これが口腔アレルギー症候群です。
大人の食物アレルギーで多いものは ➀甲殻類 ②小麦 ③魚類 ④果物 ⑤大豆 の順と言われています。
この中で口腔アレルギー原因食物として多いのが生の果物です。
果物アレルギーの出現機序として挙げられているのが、後天的な新たなアレルギーの獲得です。
シラカバ花粉と、バラ科の実すなわち果物には交差反応によるアレルギーが多く報告されています。
シラカバ花粉アレルゲン陽性者の中で、非加熱性のバラ科果物例えば、リンゴ、サクランボ、モモ、ナシ、イチゴ、スモモ等を食べると、喉や口がイガイガする症状が出現する人がいますが、これは交差反応により感作された体がアレルギー反応を示したためで、口腔アレルギー症候群といいます。
交差反応とは、異なるアレルゲンが似た構造を持っているため、体がそれらを似たものと認識し、アレルギー反応を引き起こす現象です。シラカバ花粉に対するアレルギーを持つ人が、バラ科の果物を摂取すると、シラカバ花粉に対するアレルギー反応と似た反応が現れることがありますが、これはシラカバ花粉に含まれるタンパク質とバラ科果物の一部成分が構造的に似ており、体が誤ってバラ科果物にも反応してしまうためです。
対処法としては、生の果物に反応することが多いので、加熱処理をすることで、果物に含まれるアレルゲン(タンパク質)を変性させ、アレルギー反応が起こりにくくさせる方法があります。例えば、リンゴを焼いたりジャムにしたりするとアレルギー反応が軽減することが知られています。
舌下免疫療法は新たなアレルギー感作を予防するという観点から、将来の食物アレルギーを未然に防いでくれる可能性があります。
日本国内外の臨床研究でもダニ舌下免疫療法がアトピー性皮膚炎の炎症や痒みを軽減させたという報告があります。
皮膚のバリア機能を根本から改善するわけではないものの、免疫バランスの是正(Th2優位からの脱却)により、全身のアレルギー反応を穏やかにする可能性が指摘されています。