突発性難聴

突発性難聴とは

突然に発症する原因不明の難聴(感音難聴)です。
多くの場合、耳鳴やめまいなどを伴います。

ストレスや過労、睡眠不足、糖尿病などがあると起こりやすいと言われています。

疫学

難聴を患う人は日本で年間、約10万人と推測されていますが、この内、突発性難聴の患者数は、年間3万5千人前後と言われています。(約3000人に1人)

40-60歳代の働き盛りに多くみられ、最近では、10代や20代にも多く見られます。

音楽関係者の難聴がマスコミで取り上げられることが多いのですが、コンサートなどで発症する音響外傷性難聴とは関係有りません。

遺伝的素因は見られず、男女差も認められません。

症状

よくあるのは、前日は問題なかったにもかかわらず、朝起きてテレビを付けたら音が聞こえにくい、あるいは電話の音が急に聞こえなくなるなど、前触れなく突然に発症します。

何月何日に発症したとはっきり判るのが特徴で、難聴が徐々に悪化したり、日によって聞こえの程度が変わったりすることはありません。

ほとんど片側の難聴で、ごく稀に両方の難聴が発生します。

難聴の程度は、人によって異なり、全く聞こえない人もあれば、高音だけ聞こえが悪くなる人もいます。後者では、日常会話に必要な音は聞こえるために、難聴に気付くのが遅れてしまいがちです。

聴力が改善したり、悪化したりを繰り返すといった症状の波はありません。

再発は無いため、再発の場合は他の疾患を考えます。

難聴の発生と前後して、耳閉感(耳が詰まった感じ)や、耳鳴、めまい(約30%)、吐き気などを伴うケースが多く、耳鳴で受診したら突発性難聴だったという人もいます。

強いめまいは通常1回のみであり、強いめまいを繰り返すようであれば、他の疾患を考えます。

難聴でもあるにも関わらず、一定の音量を超えた音が健常耳に比べ、「異常に響き」耳への刺激感・苦痛になる補充現象(リクルートメント現象)を呈することもあります。

耳以外の神経症状、例えば麻痺や意識障害などは認められません。

重症度基準

初診時の純音聴力のレベルで重症度が分類されます。

■重症度

  1. 40dB未満   軽度難聴
  2. 40~60dB  中等度難聴
  3. 60~90dB  高度難聴
  4. 90dB以上   重度難聴

原因

音を感じ取って脳に伝える役割をしている有毛細胞が、何らかの原因で傷つくことで突然耳が聞こえなくなります。

有毛細胞に血液を送っている血管の血流障害や、ウイルス感染が原因と考えられています。

ストレスや過労、睡眠不足などがあると起こりやすいことが知られています。

また、糖尿病が影響しているともいわれています。

自己免疫反応として、体内の免疫系による内耳または内耳の神経への攻撃も可能性として挙げられています。

これらの要素が複雑に影響しあって発症するとも考えられています。

内耳循環障害説

内耳循環障害説は、次の三つの理由が根拠とされています。

  1. 内耳血管の痙攣や梗塞、血栓、出血などによる循環障害により内耳に機能不全が起こる。
  2. 突発性難聴の治療方法で血管拡張税、抗凝固剤などの循環を良くする薬剤がしばしば有効と報告されている。
  3. 突発性難聴を発症する年代は40-60歳代に多い。
などが根拠になっていますが、「突発性難聴は再発しない」という特徴に対する説明が不足しているのが現状です。

ウイルス感染説

ウイルス感染説には3つの理由が根拠とされています。

  1. 突発性難聴を発症する前に風邪にかかっていた人が多い。
  2. 突発性難聴は一度発症したら再発しない⇒ 免疫が作られるため
  3. おたふく風邪など、急な高度難聴を引き起こすウイルス疾患が存在する。

ウイルス感染性難聴を起こすものは他に、麻疹ウイルス、風疹ウイルス、水痘ウイルス、サイトメガロウイルスなどが知られています。

ウイルス感染説では突発性難聴が再発しないことの説明に矛盾が有りません。

突発性難聴の約7%はムンプスウイルスの不顕性感染であるという報告もあります。

ストレス説

疲労やストレスで自律神経の交感神経が血管を収縮させてしまい、耳の中の血流を急激に悪化させ、内耳の血流障害になるとの説もあります。

発症し易い人

普段から真面目な方が多いと言われています。

プレッシャーやストレスにかかると自律神経が作動し、血液の流れが悪くなると発症し易くなります。

冷え性の方も、交感神経系に乱れが生じやすいので血流を悪化させやすく発症に繋がると言われています。

検査

症状を問診で確認したあと、鑑別のために聴力検査や、画像診断を行います。

突発性難聴に似た症状で、平衡神経に腫瘍ができる、聴神経腫瘍との鑑別に、頭部MRI検査が必要なこともあります。

血液検査ではウイルス感染の有無を調べます。

診断

厚生労働省による診断基準では

【主症状】

  1. 突然の難聴。文字通り即時的な難聴、または朝、眼が覚めて気付くような難聴。ただし、難聴が発生した時「就業中」や「作業中」など、自分がその時、何をしていたか明言できるもの。
  2. 高度な感音難聴
  3. 原因が不明、または不確実

【副症状】

  1. 耳鳴
  2. めまい、および吐き気、嘔吐

【診断基準】

  • 確実例: 主症状、副症状の全項目を満たすもの
  • 疑い例: 主症状の①および②の事項を満たすもの

鑑別すべき疾患

似たような病気で鑑別すべき疾患は以下のようなものが有ります。

メニエール病、外リンパ癭、聴神経腫瘍、音響外傷性難聴、ムンプス難聴、多発性硬化症、内耳梅毒、前下小脳動脈梗塞などです。

問診や頭部MRI検査等により鑑別してゆきます。突発性難聴は再発が無いので再発があれば、上記疾患を疑います。

治療法

重度であれば入院加療が望ましいとされています。

治療は、副腎皮質ステロイド剤の内服あるいは点滴による薬物療法が中心となります。

他に、内耳の血行を良くする目的で、血管拡張薬(プロスタグランジンE1製剤)や、ビタミンB12製剤、代謝促進薬(ATP製剤)などを使うこともあります。

ストレスの影響が考えられる時は、安静にして過ごします。

十分に回復しない場合や、全身投与が難しい場合は、耳の中に、ステロイドを注入するステロイド鼓室内注入療法が行われることが有りますが、その効果に対する評価は定まっていません。

星状神経節グロックを試みる施設もあります。

難聴の度合いが高度である場合は、高酸素療法を行うこともあります。

発症後、1週間以内に適切な治療を受けることが大切です。

個人差はありますが、1週間~1ヶ月間は投薬による治療が必要になります。

発症1ヶ月で聴力は、ほぼ固定してしまいます。

予後

発症後1週間以内に、適切な治療法を受けることで、約3分の1の人は完治し、3分の1の人は耳鳴や難聴が残るものの症状は軽快し、残りの3分の1の人は残念ながら治りません。

治療開始が遅れれば遅れるほど治療効果が下がり、完治は難しくなってしまいます。

発症後約1ヶ月程度で、聴力が固定してしまうため、早期発見、早期治療が望まれます。

患者さんの年齢が高齢者または10歳以下の子供の場合、予後が悪くなる可能性があるので、特に注意が必要です。

完治し易い患者さんの目安は

  1. 発症2週間以内に治療開始
  2. 初診時の難聴レベルが高度(90dB以上)ではない
  3. めまいが無い
  4. 比較的年齢が若い

となります。

これらの条件を満たせば完治し易い傾向です。